第3話 Not enough 足りていない


 あぁ、腹へった…。


 早く給食にならないかな…。


 2時間目後の休み時間。 みんな校庭で遊んでいる。

 僕はなるべく動かないようにしている。 だって動くとお腹がすいちゃうじゃん?


 とりあえずトイレぐらいは行っておくかな。


 席から立ち上がり、教室を出る。

 すると背後から肩を叩かれた。


 気配で誰かはわかっているんだけどね。


「椿くん!」

「あっ、りりちゃん。 移動教室?」

「うん。」

「階段で転ばないでね。」

「転ばないよ! ていうか椿くん、なんだか顔色が良くないけど?」

「そうかな? 気のせいだよ。」


 りりちゃんは俺の腕を掴み、廊下の端に引き寄せた。


「ご飯、食べてないの? もらえないの?」

「大丈夫だよ。」

「嘘。」

「嘘じゃないよ。」


 りりちゃんはため息を吐く。


「今は信じてあげる。 でも困ったらすぐに私に言うんだよ。」

「うん。」

「それじゃ。 あっ、今夜も会える?」

「うん、大丈夫だよ。 待ってる。」


 りりちゃんはニコッと笑い友達のところに戻った。


 そうそう、実はあの夜から僕はりりちゃんと話すようになった。

 いつの間にか名前呼びする仲になって、なんだかもう恋人同士じゃね? みたいな仲になっている。

 でも僕って中身は未だに女なんだよなぁ…。




      ☆ ☆ ☆




 その日の夜。


「おい椿! 担任から電話があったよ! あんた何を言ったの!」


 おいおい、なんの話だよ…。


「最近、沢田先生とは個人的な話はしてません。」

「じゃあなんで電話がかかってくるんだよ!」


 叔母は俺の背中を蹴り飛ばした。


「痛っ!」

 とりあえず痛がっておく。 全然痛くないけど。

「罰として夕飯抜きだよ!」


 バシン!


 ドアを思い切り閉めていく叔母。


 ドアが壊れるだろうがクソババア!

 ったく、そろそろ公園に行こう…。



 公園に着くと、今夜はいつもより風が強い。

 うわぁ、寒いな…。


「椿くん。」

 りりちゃんだ。

「お疲れ様。」

「ありがとう。 椿くん、これ食べて。」


 そう言って、りりちゃんは僕におにぎりをくれた。


「うわぁ! ありがとう! 食べていい?」

「どうぞめしあがれ。」


 りりちゃんが言い終わる前に僕は食べ始めた。


「はい、お茶もあるよ。」

「うん、あひはとありがと。」

「もう。 ゆっくり食べて。」

「うん、あひはとありがと。」


「はぁー。 やっぱりご飯食べてないんでしょ?」

「大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃない! 頬だってこんなに痩けて、春だって夜は寒いのにこんなに薄着で。 髪もパサパサじゃん! 栄養が足りていないんだよ!」


 あちゃー。 泣かないでおくれよ。


「りりちゃん、今日ね、沢田先生から電話があったんだって。 僕が何か言ったんじゃないかって。 だから当分、ご飯は貰えないんだ。 だから僕のことは気にしないで。 でもおにぎりは嬉しい。ありがとう。 あっ、また欲しいって事じゃないから、今のは忘れて?」

「無理だよ。 無理だよ! 忘れられるわけないじゃん!」


 まったく、この子は良い子だな。 私には勿体無いくらいだ…。


「それじゃ、明日から良い子になってちゃんとご飯を食べるよ。 これなら安心?」

「うん。 絶対だよ?」

「うん。 絶対。」


 なんとかりりちゃんを説得し、僕は彼女を家まで送ることにした。












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