第17話「言霊の壺・後編」③
その夜、いつも通り閉店作業を終えて二階に上がった私たちは、まず温め直したクリームシチューで腹ごしらえをした。
やっぱり美味しい。空きっ腹に溜まるし、温まる。煮込み料理最高。
「で、結局あの配送業者の人たちに頼んだんでしょ。本当に大丈夫なの?」
「前にも言ったけど、彼らは配送業者ってわけじゃないよ。確かに物を探したり、運んだりするのが得意な連中だけど」
猫に戻ったクロも私と同じものを食べながら(猫舌じゃないんかい)意味深なセリフを吐いた。
「それはなんとなく分かるけど、私にとっては引っ越しを手伝ってくれた配送業者さんなんだから、それでいいじゃない」
「はいはい」
「確かにあの人たちめちゃくちゃ手際よかったけど、さすがに今回はハードル高いんじゃない? おうちの人にバレないようにしなきゃいけないんだし」
「そうでもないさ」
今から数時間前。
結ちゃんが気を失っている間に、私とクロがまず考えたのは、どうやって壺を取り返すかということだった。交渉はおそらく無理。学校や警察はもちろん、親に話を持っていくのも難しい。なにせうちの商品は、不用意にこの世界の(魔力に対して無知な)人間の目に晒すわけにはいかない物ばかりだから。
「離れた場所から呪いをかける方法もあるけど、穏便に済ませたいならやっぱり本人の部屋から直接奪ってくるのが一番かな」
クロの提案はちっとも穏便じゃなかったけど、他に妙案も浮かばなかったので乗ることにした。ただ、彼女の家の場所がすぐに分かるかどうか、どんな建物に住んでいるかによって依頼する相手が変わってくると言われたので、まずは友人である結ちゃんから情報を聞き出すことにしたのだ。
その結果、彼女らはこの町から電車で三駅ほど離れた地区に住んでいることが分かった。結ちゃんはマンション住まいだけど、玲菜ちゃんの自宅は駅からほど近い一等地の戸建てだそうだ。ちなみに高層マンションに住んでいた場合はまた別のツテを使うつもりだったようだけど、そちらの正体も定かではない。
もちろん具体的な方法も私には教えてもらえなかった。
「あいつらは普通の住宅ならどこでも簡単に侵入できるから、難しくはないよ。それより問題は壺を取り返してきた、そのあとだ」
クロ曰く、魔道具に魅入られ、取り憑かれてしまった人間の執着というのは凄まじいものらしい。だから間違いなく奪い返しに来る。すぐにでも。クロはそう主張したのだ。
「普通の状態じゃないからね。もちろん話なんか通じない。怒り狂っていたとしたら、悪鬼の如き形相かも」
「ええぇ、それなんとかなるの?」
「力づくで制止することはできる。ただその場合、彼女が受けるダメージは結構でかい」
「そっか……」
難しいのは分かるけど、あんまりいい解決方法とは言い難いなぁ。
「それでもやらないよりマシだ。このまま放っておくわけにはいかないし、取り戻すなら一刻でも早い方がいい。でないと、あの子は衰弱して死んでしまうかもしれないから」
「……うん」
正論だ。でも、せめてもう少し何か手はないものか。
(こういうとき役に立ちそうな魔道具って何かないのかな)
壺を取り返しに行った配送業者たちが戻ってくるまで、まだ少し時間がありそうだ。
「ちょっと探してみるか」
私はカタログを持ってきて、ひたすらページを捲った。
「これは……違う、これもダメか…………う~ん」
具体的にイメージできているわけではないから、検索ワードが絞り込めず、効果のところを次々に飛ばし読みしていくしかない。捲っても捲っても関係なさそうな物ばかりで、さすがにそう都合のいい品物は見つからないかと諦めかけたとき。
「ん?」
とある商品が目に留まった。
「ねぇクロ、これ!」
私が指差した箇所を横からクロが覗き込む。
「……ふぅん。今日入荷したばかりの品だね」
「使えるんじゃない?」
「そうだね。やってみる価値はありそうだ」
かくして、ちょうど日付が変わる時刻(ころ)、準備を終えた私とクロは店で新堂玲菜が現れるのを待つことにしたのである。
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