思ひ出食堂 〜あの日忘れられない味を〜

@oshira012621

第1話 味噌汁

お客さん、味噌汁はお好きですか?

私が好きな味噌汁は大根と油揚げの味噌汁でね、たまに焼いたカリカリのベーコンを入れるとそれはもう絶品でね・・・

 え?俺が食べたいのはそれじゃない?

分かりましたよ、これが…今食べたいモノなんだね………


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サーー…

しとしとと降る雨は一月のとても寒い日

い草と線香の香りで満たされたその部屋は

雨音に読経がかき消されながら静かさを取り戻した



「南無阿弥陀仏ー………寂しくなったな」


「………そうだな、ありがとな道秀…いや、今は道秀“みちひで”じゃなくて“どうしゅう”だったな…」


「俺とお前だけなら“みちひで”いいよ、それよりお前は大丈夫なのかよ」


 俺は片平 修平 33歳 バツイチ

母親の葬儀の為、一時的にこっちに帰省している

こいつは近くの寺で住職をしている幼馴染

30年来の付き合いだ、というより悪友だ

酒、煙草、ギャンブル、女遊び……ありとあらゆる煩悩を詰め込んだのがこの男“真田 道秀”だと俺は思う、とんだ生臭坊主だが檀家の方々からは信頼が厚い……解せん……

 俺はこいつを信頼しない…こいつの顔、身長、声、外見、全ていいのがムカつく

 俺は忘れない、こいつが俺の彼女を寝とったことを………


 今日はおふくろの初七日で来てもらった

葬儀の時はてんやわんやで、ろくに話せていなかった

おふくろが亡くなった直後は役所や施設を往復するという忙しい毎日だったが、手続きが終わっていくと忙しさで紛らわせていたナニカが一気に込み上げてきて何とも言えない気持ちになっていた


「修平…最近メシ食ってるか?」


「あー…最近まともに食ってねえな、ほら、色々手続きとかで忙しくてよ」


「よし、メシ行くか…近くに美味い飯屋ができてよ」


 二人で仏壇の前でバチ当たりだなと笑いつつ煙草を噴かすと線香の煙と混じって部屋中を揺蕩う


メシの誘いは嬉しいが…俺は正直行けない、いや、行きたくない

返答に困っている俺に、道秀は真っ直ぐに目を合わせてきた


「…大丈夫だ、行くぞ」


 道秀は何かを悟っている

こいつは人が心に想うことに対して明確に応えてくる、まるで心を読んでいるかのように

 俺にはこいつの考えることは分からない

昔から仲良くしてはいたが、どこか一線を引かれていた気がした

 でも一つだけ言える、こいつが大丈夫という時は本当に大丈夫だということを


 高校生の頃、俺は近くの心霊スポットに肝試しに行った、当時はそういうアソビが流行っていたんだ

 その時人ならざるモノ、幽霊を連れて帰って

しまっていた

夜道でナニカに追いかけられる感覚、振り返って確認する勇気なんかなかった

ただただ、田んぼだらけの田舎の一本道を

ひたすら走った

どうしよう、どうしよう

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