第6話

 『7』の男と『5』の女の素数カップルだ。

 コーヒーをすすりながらカフェに入ってきたカップルの頭上の数字を観察する。人の頭上の数字を見て優越感に浸るのがたまらなく気持ち良い。

 友晴は自分のスマホを見る。黒画面に反射した自分の頭の上には『100』が浮かんでいる。顔が見えていれば色がなくても、数字は見えるらしい。

 『7』と『5』のカップルが隣のテーブルに座る。「この前のゼミでさあ」という声が聞こえるからおそらく大学生だろう。『7』と『5』の癖に幸せそうなオーラを見せつけている。

 友晴はXを開くと、二刀流で有名な選手の名前がトレンド1位だ。また、記録を打ち立てたみたいだ。写真の彼の頭上には『91』が相変わらず浮かんでいる。

 友晴に匹敵する数字を持つ人はほとんどいない。自分にもすごい能力があるのだと思うと、人生が楽しみになってくる。

 友晴はXを閉じてLINEを開く。LINEのトーク画面の一番上に高校時代に同じ部活だった武の名前がある。この名前が一番上にくるのは久々だ。

 自宅のベッドでYouTubeに出ている人の頭上の数字をぼんやり眺めていると、LINEの通知がきた。夜にLINEがくることはまずないから、通知がきただけで心臓がトクンと大きく鼓動した。

『びっくりしたことがあった!

 俺の会社の先輩の奥さんが友晴の姉らしい』

 久々にLINEを送ってきたというのに、武は要件のみを送ってきた。

 友晴は『そうだったのか』と適当に返事をした。特段興味はなかった。すると、すぐに『近々、会おうぜ!』と送られてきた。

 武とは、大学生の頃は二人で飲みにいくこともあった。でも、社会人になってからは全く会っていない。陽の結婚式が久しぶりの再会だった。結婚式の帰り道に、もう会うこともないだろう、と思っていたのに、こうして会うことになってしまった。

 武は『本当は飲みにいきたいところだけど、色々あってな……。日中のカフェで許してくれ』とLINEを寄こしてきた。

 腰を据えて話すのも嫌だったのでむしろ好都合だった。もう学生のときのようには話せない自信がある。

 指定されたカフェは、おしゃれで入りづらいな、と思っていた個人経営のカフェだ。席で注文するスタイルかと思いきや、スタバと同じで先にコーヒーをカウンターでオーダーする仕様だった。スタバみたいな店とは違い、喧騒とは離れた、ゆったりとした時間が流れている。自分には不釣り合いな気がしたが、『100』の自分なら大丈夫と思えた。

「ごめん。遅れて」

 このカフェのおしゃれなロゴが入った紙カップを持って武がやってきた。頭上には相変わらず『0』で安心してしまう。

「家内に急ぎの用時頼まれちゃってね……」と、武は席につくなり遅れた言い訳をする。

 そして、『家内』という呼び方が鼻につく。友晴とは違うステージにいる人間だと誇示しているようだ。でも、同時に滑稽に感じる。結婚なんていう、才能がなくても誰でもできるもので、マウントなんて取れるはずがないのだ。

「それにしても、珍しいな。急に会おうなんて」

 見下したトーンにならないように、友晴は細心の注意を払った。

「そうそう。この前LINEで送った通り、友晴のお姉さんの旦那が、同じフロアにいるんだよ。たまたま先輩のスマホの壁紙が見えてさ、それが赤ちゃんと先輩夫婦の写真だったんだ。それで最近子どもが産まれたって聞いてさ。その写真見せてもらったら、友晴のお姉さんが写っていてびっくりしたんだよ。いやー、世間って狭いよな」

 武は一気に喋ってコーヒーに口をつけた。まだまだ寒いのに、武はアイスコーヒーだった。

「何で俺の姉のこと知ってるんだよ?」

「だって俺たち小学校の頃からの仲だろ。お姉さんも同じ小中学校だったし。だから顔覚えてた」

 武とは小学校から一緒の腐れ縁だった。特別仲が良いと思ったことなかったから、意識していなかった。さすがに小学校から同じだと姉の存在も知っているということか、と納得する。

「友晴のお姉さんは相変わらず美人だよな」

 昔から恵は他人からの評価が高い。

「そういうことね。それを言うためだけに呼んだの?」

「いや、そういうわけじゃないんだよ」

 武が深刻そうな表情で一呼吸を置く。独身時代に買ったという高そうな腕時計がシャツの袖からチラリと見える。

「部署が違うから、今まで接点なかったんだけど、このことがきっかけで先輩と仲良くなったのよ。お互い所帯持ちだから、なかなか飲みには行けないけど、食堂で昼飯を一緒に食べたりしてさ。そこで俺のところの子どもも小さいから自然と子育ての話をしてるんだ」

 武は去年、子どもが産まれている。グループラインで報告があったすぐ後に、LINEのアイコンが赤ちゃんの後ろ姿になっていたのを思い出す。

「それでこの前、先輩と昼飯を食べてたら、なんとなく元気ないんだよな。俺が『どうしたんですか?』って聞いたら。嫁……つまり友晴のお姉さんが夜中、子どもの隣でスマホを触って何かしているんだって。イヤホンマイクで誰かと電話をしながら」

 最近夜中に廊下を歩くと、母親の佳子が誰かと話している声が聞こえるのを思い出した。会話の口調からして恵と電話しているのだと思っていたが、やはりそうだった。

「でも、何してるか聞いても、友晴のお姉さんははぐらかすらしい」

 武はまたコーヒーに口をつける。一気に話をするから、喉が渇いてくるのだろうか。友晴が相槌を打っているかどうかも気にしていないようだ。

「それにさあ。友晴のお姉さん、あなたは私がすごい子にしてあげるからねえ、って頭を撫でながら語りかけたりしてるんだって」

 恵のその姿を想像すると、笑いそうになる。産まれたときに才能は決まっているのに、無駄な声かけをしているのは滑稽でしかない。

「先輩、結構悩んでる感じだからさあ、お姉さんに夜中に何やってるか聞いてやってくんない?」

「聞くって言うけど、俺なんかに答えてくれないと思うぞ」

 恵とは口をきいてない、と言おうしたが、止めた。家族内もうまくいっていないと思われるのが癪だからだ。

「そうかー。まあ、旦那に言わないことを弟に話す道理もないか」

 友晴は少しぬるくなったコーヒーを啜ると、勇樹と病院の喫煙所で、缶コーヒーを飲んだことが蘇ってきた。あの時から結局悩みは解決していないらしい。

「よく考えたら、あれも何かあったのかなあ」

「うん?」と反射的に口から漏れてしまう。

 武は釣れた、という表情で前のめりになった。

「産まれてすぐの頃、俺の家内も夜中に子どもの近くでやたらスマホいじってたんだよな。その時は寝られないのかな、くらいにしか考えてなかったけど」

「スマホ触るくらい、普通のことじゃないの?」

 うーん、と武は腕を組んで唸る。左手首の高価そうな腕時計が光っている。

「今思うと、なんか変だったんだよなあ。普通に息抜きでスマホを使っているわけではないような感じでさ。鬼気迫るっていうの? でも、スマホの光でせっかく眠っている子どもが起きるのも良くないなと思って、声かけたわけよ。そしたら、めっちゃ睨まれてさ。スマホの光もあって本当に怖かったな。俺も触れちゃうけないんだって思って、そっとしておいたんだ。でも、1番怖かったのがそのことについて家内が何も言ってこなかったことだな」

 武は一気に言いたいことを言えて、満足そうな表情だ。

「奥さんに赤ちゃんのお世話、任せきりだったんじゃないの?」

「そんなことねえよ。俺って結構そういうとこしっかりしてるぜ?」

 自分で言うなよと思いつつ、武は何だかんだちゃんとしている、というのは昔からの皆の評価だ。友晴はそこが嫌いだった。

「勇樹さんも同じようなこと話してたんだよなあ。とても声をかけられる雰囲気じゃない。電話していない時は何かに取り憑かれたみたいにスマホの画面を凝視しながら画面をタップしてたらしい」

「勇樹さんも武も考えすぎだと思うよ。赤ちゃんのそばでスマホ触るなんて普通でしょ。それこそ、可愛さのあまり、写真を撮ってただけかもしれないし」

 恵に関しては自分の娘の可愛さに酔っていただけだ、ということも考えられる。

「まあ、それもそうか」

 武は頷いて、納得したような素振りを見せる。

「それにしても、友晴が先輩のこと勇樹さんって言うの、おもしろいな」

「うるせえ」

 友晴はこういう茶化しを懐かしく感じる。軽口を自分に言ってくれる人なんて、今はいない。

 隣の『7』『5』の素数カップルの笑い声が聞こえる。楽しい話が尽きないといった雰囲気だ。頭上をチラッと見ると『7』と『5』がフワフワ同じ動きをしている。それがとてもお似合いに感じた。 

「そういえば、武の子どもは元気?」

「おう」と言いスマホを取り出して、こちらに向けてきた。

「天使だろ?」

 写真には笑顔で座っている赤ちゃんがこちらを向いている。

「うん。かわいい」と父親が最低限言ってほしいだろう言葉を選択する。友晴は、自分の中で赤ちゃんの比較対象をもっていない。恵の子どもも「0」であることしか印象に残っていない。

 武の娘の笑顔の上には『34』と浮かんでいる。武よりも才能豊かな子のようだ。

「今何ヶ月なんだっけ?」

「9ヶ月」

「そんな経つんだ」と言いつつ武にスマホを返す。

「子どもの成長は早いぜ」と言いながら、武はもう一度スマホを友晴に見せる。今度の写真は赤ちゃんを数人で囲んでいる。

「娘が産まれてすぐ後に両家で撮った写真。良い写真だろ?」

 椅子に座って赤ちゃんを抱いている武の嫁と武、そしてその家族らしき人が写っている。

「武の後ろにいる人たちが武のお父さんとかお母さん?」

「おう。家内の後ろにいる人たちが家内の家族。妹さんがいるんだけど似てるだろ?」

 武は友晴が家族に興味をもってくれたことに満足げだ。でも、友晴は別に武の家族事態に興味をもったわけではない。

「武の奥さんって仕事とかしてるんだっけ?」

 友晴は何の気なしに聞いている風を装う。

「してるぞ。会社員ではないんだけどね。小学生向けに塾を自分で経営してる。嫁ながらにすごいよ。生徒数も増えてきているみたいで。今は部下に任せているみたいだけど、子どものことが落ち着いたら仕事に戻る気満々だぞ」

 武は屈託のない笑顔で話す。

 友晴は適当に頷きながら、武と武の嫁の家族写真をまじまじと見る。

 武の家族全員の頭上には『0』が浮かんでいる。そして、武の嫁の家族の頭上にはそれぞれ数字が浮かんでいる。しかも、皆2桁以上だ。武の嫁一家は才能に恵まれているということだ。だからこそ、独立して仕事もできるのだ。才能に恵まれた上に環境も整えてもらって、まさに親ガチャ成功ということだ。

 友晴は才能を活かせていることに嫉妬してしまう。自分にも何か才能があるはずなのに、環境が悪いおかげで潰されてしまった。

 武の家族は能天気に笑っている。『0』だからこそ、馬鹿みたいに笑っていられるのだ。一方で武の嫁の家族は引き締まった表情をしている。才能がない家族と才能に恵まれた家族で見事に分かれている。武は一生嫁の尻に敷かれて生きていくのだろう。

 武が赤ちゃんの部分を拡大してもう一度友晴に写真を見せた。

「この頃は本当に食べられるくらい小さかったんだぜ。たった9ヶ月なのにどんどん大きくなって、嬉しいやら寂しいやらで……」

「やっぱ赤ちゃんの成長ってすごいんだな」と言うと武が嬉しそうに頷いた。

 写真の武も目の前の武も幸せそうなのに、武の頭上には『0』なのが滑稽に見えてしまう。

 もう一度武のスマホの写真を見る。武の子どもは眠そうな表情をしている。頭上にはちゃんと数字が浮かんでいるが、違和感がある。

「ごめんよく見せて」と武のスマホに更に顔を近づける。

「可愛さにやられたか。お前にはやらねえぞ」と武は言ったが、脳がその言葉を処理しようとしない。

 さっきの写真の武の子どもの頭上にはたしかに『34』が浮かんでいた。それなのにこの写真は『0』だ。

「これ、本当に武の子?」

「何バカなこと言ってるんだよ?」

 武は友晴が冗談で言っているとしか思っていないようで、笑いながら、見せていたスマホを引っ込めた。

 友晴はコーヒーを飲んでみる。コーヒーの味がしない。

 最初に見せてもらった武の子はたしかに『34』だった。それなのに、今見た写真は『0』だ。

 数字が違う。そんなはずはない。友晴が調べた範囲では同一人物で数が違う人間は1人としていなかった。

 隣のカップルの声が雑音になる。2人の数字は変わっていない。

 武はそのままスマホを触っている。いつでも見られる子どもの写真を見て悦に浸っているのだろう、とか余計な思考が入ってくる。訳が分からなくて、脳が考えることを拒否しようとしているのかもしれない。 

 友晴もスマホを見る。試しに子役から活躍している女優の名前をグーグルで画像検索してみた。画像検索すると、舞台挨拶をしている写真や最近出演していたドラマのワンシーンなど、多くの画像がヒットした。スマホに映し出された複数の画像は、すっかり美人になったものばかりだ。そしてどの画像にも頭上には『81』と浮かんでいる。

 友晴は下にスクロールする。『81』『81』『81』『81』『81』『81』どの画像も『81』だ。

 友晴は舌打ちが出そうになるのをこらえながら、グーグルの検索窓に『子役』と追加する。すると、幼い頃に出演していたドラマのワンシーンの画像が出てきた。おそらくこの子が小学生になる前のドラマだ。頭上には『81』が浮かんでいる。

 やはり、時間が経つことで数字が上がる事なんてないのだ。才能は持って生まれたものであって、変えられないのだ。

 この女優は子役時代から受け答えや考え方がしっかりしており、「人生何週目?」と度々話題になっている。演技力も評価されている一方で、難関私立大学にも通っている。まさに非の打ちどころがない。だからこそ頭上の数字も高いのだろう。やはり才能と数字は相関関係にあると思える。

 友晴は武の頭上の数字に気を取られて見間違えた、と思うことにした。数字が変わることなどありえないし、ましてや増えるなんてあってはならない。

『0』『0』『0』『0』

 カフェを見渡すと『0』が一番目に付く。大丈夫。こんなに多くの人が才能もなく、変化することなくのうのうと生きているのだ。

「そういえばさあ」

 武の目はスマホから目を離れない。友晴が返事する前に武は続ける。

「うちの家内、賢い子に育ってほしいからって、もう英語の音楽とか聴かせてるんだ……」

 自慢をしている様子はない。事実として淡々と述べている。

「さすがに早くない?まだ0歳でしょ?」

 友晴は今での思考を振り払うように前のめりに聞いてみる。

「俺もそう思うんだけど、この子には才能溢れた子になってほしいからって。まあ、虐待をしているわけじゃないし、それで賢くなるなら、ね」

 自分を納得させるように武は頷きつつコーヒー手に取って、口につけて傾ける。氷があったのか、バリバリと噛む音が聞こえる。

「そういうのって意味あるのかな。結局人間なんて産まれたときの才能でしか決まらないのに」

 友晴は思わず口から出てしまったが、間違ったことを言ったつもりはない。

「寂しいこと言うなよ。努力だって大切だろ」

 武が少しムッとした言い方をしたので、これ以上何か言うのは止める。でも、武は気づいているのかもしれない。自身のことを所詮は凡人だ、ということに。

 友晴は自分のスマホで自身の顔を写してみる。大丈夫。頭上にはちゃんと『100』が浮かんでいる。

「そういえば、『この子賢いよ』って産まれてちょっと後くらいにすごく嬉しそうに言ってたんだよな。それこそ、さっき友晴に見せた家族写真を撮ってから1週間後くらいに」

 武は背もたれに体を預けて、天井を見上げる。

「あれは何だったんだろう」と呟く武に友晴は何も答えられない。

「気にしても仕方がないとは思うけど、ちょっとした言動が気になるんだよなあ。なんか違和感があるというか」

 武は友晴が何も反応しないのに構わず続ける。

「才能に取りつかれているように見えるんだよなあ。今って世の中がそういう風潮あるじゃん? 親ガチャって言葉が流行っているわけだしさ。嫁もあてられてるのかなあ、そういう空気に……」

 嫁という言葉を武は今日初めて使った気がした。だからなのか、武が武でないように感じる。

 圧迫されているわけでもない。穏やかな口調で淡々と話しているだけなのに、コーヒーがコップに残っているのか確認ができない。まだ残っているような気もするし、さっき飲み干した気もする。

「そもそも才能ってなんなんだろうな。俺だって別に大した人間ではないけどさ。得意なことも苦手な事もそれなりにあって、その時々で対処をしてきた。特別な才能がなくったって、楽しく生きることはできるのに」

 武は少し黙ったかと思うと、吐き出すように「元気に生きてさえくれれば、それで良いんだけどなあ」と言った。

 武の言葉に胸がギュッとなる。つい最近、勇樹からも聞いた気がする。やはり『0』同士で波長が合うのだろう。

「才能なんてものにこだわるのは、なんか悲しいよな……」

 友晴は頭に血が上るを感じる。

 才能があるのに、人生が楽しくない友晴のことを非難しているように聞こえる。そんなの、才能がない奴のただの僻みだ。武みたいな『0』の奴らなんて才能がないことを誤魔化して、ほどほどに楽しい人生を送っているだけだ。才能があるのにそれを活かす環境を与えられない苦しみを理解できないのだ。

「奥さんも武も子どもことをちゃんと考えてるだけじゃない? 方向性が違うだけでしょ」

 やっとのことで言えた言葉に自分で満足する。才能がある人間だからこそ、才能がない人間に配慮しないといけない。本心を出して、ここの空気を乱すほど子どもではない。

「まあ、そうだな」

 武はいつもの柔らかい表情に戻る。

「それにしても、ネットニュースでもメディアでも、世の親を焦らすことばかり取り上げるよな。親ガチャも然りだ。この前もなんかのテレビで東大生の母親特集みたいなのしてたし」

 友晴はXでみたポストを思い出す。かなり話題になっていたが、武も観ていたようだ。

「家内も観てたからなあ。それ観てから、才能へのこだわりに更に拍車がかかったかもしれないな」

 武は自分で納得したように頷いている。

「本当に多いよな。才能に言及した話。そういえば、同期も子ども産まれたときに言ってた気がするな」

 友晴は、類は友を呼ぶという言葉を思い出した。武の周りは20代のうちに結婚して子どもを作る〝それなり〟の人生を生きるだけで精一杯の人間しかいないのだ。その同期も『0』だろう。

――あの子本当に天才だよね。本当羨ましい――

 隣のカップルの彼女の声を耳がとらえる。才能とは羨まれるものでなければならない。それが自然なことだ。

「ごめん、トイレ行って来る。やっぱ寒い日にアイスコーヒー飲むとトイレがちかくなるな」

 武はそう言って立ち上がり、トイレを探す為か店内を少し見渡した後、歩いて行った。頭上の『0』が寂し気に浮かんでいた。

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