第46話  平和が一番!

「多重人格ねぇ……。勿論、聞いたことはあるけど、本当に実在するとは思わなかった」

「そうだよねぇ……」


 私は水を啜りながら、ルキのその言葉に納得した。

 実際私も当の本人に「私は多重人格者だ」と告げられた時は眼を何度もこすったものだ。


 と思っていると、彼女のそばは何故かもうなくなっていて、帰る支度をしていた。


「早くない?」

「ノドカが遅すぎんだよ。もう麺のびてるぞ」

「え、まじ?」


 それが定かか確かめるため、麺を啜ってみると、もうその麺に本来のコシは失われていた。


「まじか~」

「残したらだめよ」

「それは分かってるけど……」


 私は残念そうにのびきったそばを眺めた。


「あと、私、明日東京に戻るし、ちゃんとアイドルグループのほうにも顔出すから、そのこと、あの人たちにも伝えといてくれる?」

「ん、分かった……。うーん……。もうあまりおいしくない……」

「味わって食べなさい」


 彼女はそう吐き捨て、店を出て行った。


*****


 そして、私たちはついでに姫路城を見たあと、何事もなく東京に戻った。


「私たち、何しに行ったんだろうね……」

「さぁ……?」


 それから、少し経った後……。エルからの連絡で知ったのだが、ナナ②とルキは無事、仲直りすることができたらしい。これ、私、何もしなくてもよかったのでは?


 そんなことがあり、またまた少し経った後……。スーパーミラクルガールズのメンバーは事務所に呼び出された。


「あの、何の用ですか……?」


 エルが先陣をきって訊いた。彼女はもうこのグループのリーダー的な存在である。彼女のことをそう私たちが引き立てようとすると彼女は「いやいや、そんなことないですよ」と否定する。


「で、何に用かというと……」


 マネージャー(いたんだ)が口を開いた。


「このライブハウスにて初ライブをします」


 初ライブの連絡であった。

 ライブの日程は今からおよそ一か月。


「これは、長いと言えるのでしょうか……!短いと言えるのでしょうか……」


 私が本番までの練習メニューを見ながらそう呟くと、ナナがそれに反応した。


「分かんなぁい……」


 ちなみに、今日の彼女はナナ⑤である。なかなか落ち着いた感じの性格をしている。口調は少し②に似ている感じがするが、②はやはり元気がある。


「じゃあ、明日から練習か……」

「頑張ろうね!ノドカ」

「うん!」


 私とナナは腕を組んだ。


「てか、ナナは明日練習できんの?」

「どうなんだろう?外出許可証出そっかな?読みたい漫画あるんだけどなぁ」

「へぇ~」


 ちなみにナナの人格の待機場所は意外に快適なようで、自分のお気に入りの漫画や小説、ギターとかそんなものを置くことができるらしい。そんな個人の部屋もあり、ナナの人格が話し合える場所もあるみたい。いわゆるルームシェアだ。だから、結構みんな外出許可証を出したがらないらしい。


「ははは……。まぁ厳しそうだもんね」

「うん……。それだったら、部屋で漫画読んでたいよ」

「スゲー弱気」

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