第42話 別人……。

 前会ったときのナナとはまるで違う。


「やっぱり、昨日の話なんだよね……」

「うん……。本当は私も落ち着いて話せればよかったんだけど、カッカっとしちゃって」

「うん。まぁ、確かに……」


 しかし、何か変だ。会話に違和感を感じる。

 今、私が話しているナナ……。昨日会ったナナとまるで別人だ。しかし、この違和感……。比喩でかたづけていいものか。

 いくら、落ち込んでいるといっても、これは、やはり何かおかしい。


「とりあえず、ゲームでもやる?」


 私はニンテンドースイッチを棚から取り出した。


*****


 とりあえず、マリオカートをやった。

 しかし、いまいち盛り上がらない。

 部屋にはゲームのサウンドだけが響いた。よくある、甲羅をぶつけられて叫んだり、そんなこと、一切ない。面白くいない。


「ねぇ……。ちょっとはしゃべってくんないかな?」

「何で?」


 怖ええええええええええ!!!!!!


 何この人!めっちゃ怖いんですけど!


 私の手は恐怖のあまり震えていた。

 その影響で、画面内のカートはコースアウトしまくっている。


 ガン!ガン!ガン!


「ねぇ、何やってんの?」

「………………」


 体が硬直し、私は自分の口も手も動かすことができなかった。


 そこから、少し経った。なんで私たち、ゲームしてたんだろう。なんか、どっと疲れた。


「それで、ノドカさん、相談があるんですけど」

「それなら、昨日喧嘩した本人と話させてくれないかな?」

「っ………………」


 そう、今の彼女は昨日のナナではない。別人の『ような』ではなく、今の彼女は別人なのだ。

 彼女はいわゆる『多重人格』である。


「ばれてたんですね……。はい、私は昨日のナナとは違う人格、ナナ①と呼ばれている者です」

「え……。ちなみに昨日のナナは?」

「ナナ②です」


 彼女は冷静に返答した。

 ちなみに、私は落ち着いたように見えるが、さっきと焦り度はあまり変わっていない。

 掌にある手汗が気色悪い。冷や汗が止まらない。目線が彼女のほうにうまく向かない。しかし、表情だけは冷静を装っていた。いや、多分、装えていないわ。


「それで、昨日、ナナ②が暴れたらしいんですよね」

「記憶は共有できるんですね」

「なんか、スペースがあるんですよ。そこで他人格とコミュニケーションをとることができます」

「へー。ってかその言い草だと他にも人格があるように聞こえるんだけど」

「いますよ。ナナ③もナナ④も他にももうちょいいますね」

「まじかよ」


 ちなみにその数、なんと8人らしい。


「ちなみに、なんで番号読みなの?」

「名前決めんの面倒なんで」

「あーね」


 ちなみに、この番号はその人格の出現順である。

 ナナ①が生まれたとき

 ナナ②が四歳のころ

 ナナ③が七歳のころ

 ナナ④が十歳のころ

 ナナ⑤が十一歳のころ

 ナナ⑥が十二歳のころ

 ナナ⑦が十三歳のころ

 ナナ⑧が十四歳のころ

 ④~⑧は一年おきに出現している。何か、理由があるのだろうか。

 私はそんなことを考えていた。いや、そんな暇じゃないだろう?

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