第14話 新(神)Vtuberの誕生

 私のママは恐ろしく、仕事が早い。

 つい最近、キャラデザを頼み込んだのに、もう今日でVtuberができるようになってしまった。灯見先輩曰く、「あいつはストイックの代名詞」とのことだ。いつもの動画制作も恐ろしく早いらしい。人間業ではないようだ。

 まぁ、とにかく、私は今日から、Vtuberができるようになったということで、デビュー配信することになった。

 くりばいたるでの配信勢はアカナと秋谷先輩だ。だから、配信のアレコレを彼女たちに聞こうとしていたわけだが……。


「なんで、くりばいたるに二人ともいないんですか?!」


 二人はくりばいたるに来なかった。


「アカナは部活で用事。のどかは不明だよ」


 くりばいたるの住人、灯見光先輩がそう私に教えてくれた。


「秋谷先輩……。出番少ないって危機感あるなら、ちゃんときてくださいよぉ」


 私は相手のいない言葉を吐いた。そして、へこんだ。


「一応、私も配信してないわけではないけど??」

「何回やったことあるんですか?」

「う~ん……。片手で数えられるくらい?」


 参考にならん。


「ママ……。どうしたらいいですか?」

「ん~?お絵描き配信??」

「絵、描けません……」

「やる前から諦めたら、だめだよ!アカナを見習わなくっちゃ!」


 ママはビシッという効果音がなるかのような勢いで私を指差した。そのママの顔は自信満々である。


「はい、これペンタブ」


 灯見先輩は自らのペンタブを私に差し出してきた。


「別に紙でいいですよ」

「とるの面倒だから、これで描いて」


 これこそ、まさに、干物というべきであろう。哀れだ。誠に哀れだ。


*****


 十五分後。


「うまいんかい!!」


 うまかった。


*****


 彗星未鈴 X更新。

『八時よりYouTubeにて、特別配信!!みんなきてね!!』


 このポストはバズった。


「あらら……。すげー。さすが、有名インターネッター」


 二人はあっけにとられていた。ちなみに、私はもうこんなこと何回もあったから、ノーリアクション……。ってわけでもなかった。


 『彗星未鈴』日本トレンド三位。X、ぶっ壊れてんのかな?


「すごいな……。これ、同接やばいことになりそう」

「ぐるぐる、気を付けないとねー」


 ぐるぐる、同時接続による通信障害のことか。


「う~ん、そんなに集まるかな……?」


 私は頭を掻きながら、言った。


「おい、おまえ……。トレンド三位なめんなよ」

「これぞ、いわゆる、なろう主人公ですよねー」


 なんだ、この人たち。


「俺、なんかやっちゃいました??」

「未鈴、一人称『俺』はイメージが壊れるって」

「大丈夫です。ただのネタなんで」


*****


時刻はすっかり七時半。めっちゃ、緊張してきた。なんてたって、私は現在まで、全然、声出しをしてなかったからだ。声ブスって言われたらどうしよう。二十年は引きずる。

 キャラクターデザインはママだから大丈夫だ!


「大丈夫。未鈴は私ほどではないけど、可愛い声、持ってるから」


 と灯見先輩は言った。


「灯見先輩には及ばない……。私ってそんなブス声ですかっ?!」

「おい、どうゆうことやそれ」


*****


 さぁ、そろそろ配信だ。まだ配信は開始されていないが、リスナーはもう入ることができ、コメントも表示されている。どれもこれも、私に対する期待のコメントばかりだ。これを見ると少しワクワクしている自分がいる。


「いや、浮かれるな、浮かれるな!」


 私は自分の頬をパンパンと叩いた。少し、気が引き締まった。

「少し」と「少し」の相殺により、私は比較的、平常心を保つことができた。まぁ。配信場所がくりばいたるで近くにママがいることもあるだろう。灯見先輩は……。いても、いなくても、変わらないか。


「じゃあ、そろそろ、開始よ。始まったら、私と光は向こう行っておくから。困ったら、こうやって、合図して」


 ママはあの、かの有名な『瞬間移動のポーズ』をした。


「もっと、他になかったんですか?私、戦闘民族じゃないんですけど……」


*****


 結果、この配信は大成功し、同接は300000人に上った。

 そして、この配信が終わるころには、Vtuber彗星未鈴のチャンネルの登録者は100000人を超した。

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