木本仁アカナ編①
第1話 事務所に入ります!
ある日、私がYouTubeを見ているとある人達を見つけた。
それが、『Virtual YouTuber』略して『Vtuber』だ。
仮想現実に存在する人達でみんなに夢と希望と笑いを生み出す素敵な存在。
これは、私がまだ小学生の時。私はこの時、あるVtuberに出会った。
チャンネル登録者数100万人。人気Vtuber
私は初めて彼女の配信を観た時、憧れた。
「わぁー凄い……。凄いなぁこの人!」
円滑なトーク運び。適度なファンサービス。神対応と塩対応の絶妙なバランス……。
この人が100万人の登録者を取れるのは流石に納得だ。
そして、私はここから、Vtuberに憧れた。心の奥底で。
*****
それから5年の月日が経った。
中学に上がってから、自分はVtuberをやってみたいと親に告白した結果。甘々な親はそれを了承アンド応援してくれて、機材も中々良いものを買ってくれて、『リアルロリVtuber』として多少の人気を博した。
そして、高校生になって……。私はなんと!事務所に入ることが決まった!!
と言っても、小さな企業だけど……。
オフィスは東京ではなく、大阪にあるそうだ。そいつはありがたい。私の家は兵庫にあるからだ。
近場を幸運と思い、私は小さなオフィスに来た。
「こんな小さな場所でもVtuber事務所ってできるのか……」と感心しつつ、私はオフィスへの階段を登った。
扉の前に立ったのは良いものの、やはり少し緊張する。
「何やってんの?ちょっと退いて」
「ひえっ!」
情けない声を出してしまった。私が見た先には綺麗だが、何やら強気な金髪日本女性がいた。
「あ、はい、どうぞ」
私は潔くそこを譲ると、彼女は躊躇いなく扉を開けて、「お疲れーっす」と言って。ついでに「なんか入り口に変なやついるっすよ」と私の存在を知らせてくれた。
すると、社長のような風格を持った男性が現れた。
「あ、新しい人っすか?どうぞ」
「あ、はい、失礼します……」
私が入ると、三人の女性からの視線を感じた。まるでナワバリに入ってきた余所者を毛嫌いするようなヤンキーのように。
「あの……。ここって本当にVtuber事務所なんですか?」
「はい。そうっすよ。と言っても弱小ですけど」
私はその言葉に苦笑した。
*****
株式会社くりばいたる。それがこの会社の名前だ。私のことを出迎えてくれたこの男性。
ちなみに事務所内の雰囲気は「女子校みたいなもん」らしい。
しかし、そんな説明がなくてもどんな社内の内装で大体のところ分かる。
内装は所狭しと言ったところで、そして、将棋盤、囲碁盤、麻雀卓がある。おじさんがよく集まりそうな場所に見えるが、ここに集まるのはれっきとしたVtuberである。
そんな事務所にいる女性達は動画編集したり、将棋、囲碁、麻雀したりしている。
「この事務所の雰囲気はどうです?」
和俊さんが私に訊ねた。
そして、私は答えた。
「あ、はい、まぁ、とてもVtuberとは思えませんね」
率直に意見を述べた。
*****
「そういや、和俊さん。もう一人来るんじゃなかったっけ?次は新人」
ある一人の女性が言った。恐らく彼女もVtuberだろう。
「あれ?君は新人じゃないの?」
「一応、ずーっと個人でやってて……。Vtuber歴3年です……」
「「長っ」」
和俊さんと女性の声が被った。
「すごーい。なら、登録者もそれなりにいるの?あなた、名前は?」
女性がずかずかと聞いてくる。
すると、事務所のドアが開いた。
「ここですか?くりばいたるという事務所は」
容姿端麗。一言で言い表すならそうなるか。Vtuberとしてのキャラなら間違いなく清楚系だろう。そんな女の子が入ってきた。
その女の子は事務所内を見るや否や……。
「あ、間違えたみたいですね。Vtuber事務所だと思っていたのですが……。すみません。失礼しました」
ガチャン
「何?あの子。さっきのが例の新人?」
「さあ……?」
「ちょっと!あの子追っかけて!」
「「え?」」
和俊さんの必死さに私たちは思わずそんな反応を見せた。
「あの子……。凄いインターネッターなんですよ!ここで捕まえるとウチの知名度も上がる!」
「いきなり金に執着すんなオイ」
「うるさいよー。秋谷くん」
秋谷……。Vtuber名。
「お願いだよー!彼女はきっとウチの稼ぎ頭になる人なんですよー!」
「稼ぎ頭って、社長……。他のビジネスで既に沢山稼いでるじゃないですか……。Vtuberの方まで金金言わなくても……」
「当然、君達の給料も上がるわけだが……」
「「「行きましょう!!!」」」
三人が一気に立ち上がって、事務所の外に出て、彼女を探そうとした。
「ほら、新入りも早く!」
先輩の一人にそう声をかけられ、私も飛び出した。
*****
運動神経が壊滅的に悪い!
そんな私はすぐに走っていく女子の集団から外れた。
「はぁっ!はぁっ!あの人たち足速すぎでしょ!」
Vtuberって普段家での仕事だから運動不足だという偏見を持っていたが、彼女達の場合は違った。彼女達はみんな体育会系であった。
とうとう私は疲れ果てて、手を膝についた。
まだ春なのに私の汗腺から汗がドバドバ出る。日頃の成果がここで発揮された。近くで座る場所を座ろうにもここは大阪の梅田。そんな都合の良い場所さらさらない。
私はとりあえずコンビニに入った。飲料水コーナーに行って、水を手に取る。ふと、右を見ると、なんと、目標の女の子がそこにいた。
「あ」
「あ」
お互い目を合わせた。
しかし、お互い意識はすぐコンビニの商品に戻る。
いや、こんなことしてる場合ではないだろう。私はとりあえず、彼女に声をかけることにした。
「あのー、ちょっと……」
「ん?何?」
髪が長く、耳が見えなくて、こんな雰囲気だからイヤホンをつけてるから聞こえないみたいな展開を期待していたが、どうやらそんなふうにはならずに私の言葉は通じたようだ。
「さっき、事務所に来た方ですよね?」
「事務所……?あ、あそこ?すみません。私、Vtuber事務所だと思ってあそこ入ったんですけど間違えたみたいで……」
彼女は気まずそうな顔をして答えた。
「いや、大丈夫ですよ。てか、補足しておくと、そこ、Vtuber事務所です」
「え……?」
瞬間、私達の間で沈黙が続いた。
「え!あの雰囲気でVtuber事務所だったんですか!?」
「うん……。そうらしい」
「あれ?なんか他人事ですね」
「実は私も今日入ったばかりで……。それで……」
「まさか……。同期ってやつですかっ!」
彼女のテンションはかなり上がっていた。
*****
何とか彼女を事務所まで連れ戻すことに成功した。
「おっ!お手柄―。新人!」
先輩の一人が拍手で私を称えた。
「すみません。早とちりしました」
彼女は頭を下げて謝罪した。
「いいの、いいの、ここ、ちょっとズレてるから」
と秋谷先輩は暖かく答えた。
「そうなの?」
「知らん」
他、二人の先輩はそう言いながら目を見合わせている。
「じゃあ、折角、二人も新しく入ってきてくれたから、五人とも皆んなで自己紹介をしましょうか」
と和俊さんは提案すると、
「えー。社長も入れようよー」
と秋谷先輩が返した。
「そうだよー」
「社長としていちゃん最初やれー」
と残りの二人も続く。
「えっ……。あっ……。しょうがないな……」
和俊さんは頭をかきながら自分の紹介を始めた。
「どーも、ここの経営をしている佐藤和俊でーす。Vtuber事務所以外にも色々やってるんで、お金にはあまり困ってませんので、あなたたちを一生懸命サポートして、活躍してもらって、お金回してください」
和俊さんはそう言って頭を下げた。
「じゃあ、次、私達だな」
私が入る時に声をかけていたあの強気な女の子が切り出した。そしてもう一人、ショートヘアの子と肩を組んでノリよく自己紹介を始めた。
「どーも。まだまだVtuberとしてはまだ一年目。
「
何やら、二人は仲が良さそうだ。こういうものなのだろうか。
そして、次に、秋谷さんが手を挙げた。
「私ね、私は公には事務所に入ってることは明かしてないけど、一応、この事務所のお世話になってる秋谷のどかでーす」
「そんな、いい加減で大丈夫なんですか?」
私がそう疑問をぶつけると、秋谷さんは
「大丈夫、こんな小さい事務所、入ってないと同じだから」
「おい」←和俊さん
「同じじゃないです!ちゃんと報告しましょうよ!」←私
「はい」
秋谷のどかは元気ながらもそこに隠れているミステリアスさでまた人気を博している。しかし、こんなことも隠しているとは……。
「秋谷先輩はVtuber歴何年なんですか?」
彼女が聞いた。
「半年」
「すごい。半年でそんなに集められるんですねー」
「もう!私はいいから次、アンタが自己紹介してよ!」
秋谷先輩は頬を膨らませて言った。
「あれ?てかさっきからVtuber名で自己紹介してましたけど、本名はどうなんですか?」
「いや、それは名簿見とけ」
「そこにあるよ」
聖川先輩がカウンターを指差した。
「でも、今は自己紹介の時間だからね。それは後で!」
和俊さんはそう彼女に声をかけた。
「じゃ、私やります。さっきは逃げてすみませんでした。
「「「「え!!」」」」
和俊さん以外のその場の人が全員驚いた。勿論私も含めて。
彗星未鈴……。Xに現れたツイッタラー。その魅力的なポストに皆魅了され、フォロワー数は100万……。
「まさか、Vtuberデビューとは」
「そうだろう!?驚いただろう!?」
和俊さんが妙にテンションが上がっている。
「ここって……。本当にVtuber事務所なんですよね?」
「うん」
「……」
未鈴は辺りを見渡した。恐らく彼女は今「ここが……?」と思っていることだろう。無理もない。
しかし、こんなインターネッターがVtuberデビューとは……。そんな衝撃的事実にこの場は飲まれ、私は自己紹介の機会を逃した。
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