新聞も魔法使いもウチは間に合ってますので

Heater

第1話 新聞購読

よく晴れた休日の午前10時。俺は弟のピーチャムを連れて隣の一軒家のドアの前に立った。ノックを強めにする。

ピーチャムが吠えるように言う、昨日練習したセリフを。「ジョヤさん、隣のセレストです。おはようございます!」

声に応えるようなタイミングでドアが開いた。ジョヤ爺さんだ。茶色い髪は短くくしゃくしゃ、その下の額はしゃべるたびに皺がよった。

「おはよう。時間どおりだね。ご両親から聞いたと思うけど、留守番をお願いするよ。ガーベラは葬儀に行ってしまったからな、エズラの」

俺たちはどっちの名前も知らないので聞き流した。たぶんガーベラとは家政婦さんだろう。

「悪いが食事もこの家の中で取ってもらう、大したものはないがガーベラの作り置きを温めて食べてくれ。まあサラダは温めることはないが」

俺は尋ねた。「誰か来る予定ですか」「そうだ。エベレットに戸棚の修理をたのんだから」

「何時ごろに?」「2時以降と言ってた」

彼のことは僕らも知っている、自信に溢れた大工だ。とはいえその腕前よりも、外国から連れてきた奥さんのことで噂に上るのだった。

ジョヤ爺さんは人差し指を立てて3回横に降った。ち、ち、ち。「エベレット以外が来ても入れてはいかん。」ちょうどチャイムが鳴った。ピーチャムが大きな声で玄関の外側の者とやりとりする。

「こんにちは、ツキアカリ新聞です。新聞の購読をしませんか?」ジョヤ爺さんは首を横に降ってみせた。ピーチャムはポーチへ出て伝えた。「購読は結構です」室内にいてもやり取りははっきり聞き取れた。パンフレットを置いていくので、気が向いたらローガンあてに電話をください。

ポーチから降りる足音。

ピーチャムは異常な枚数の紙束を抱えていた。「パンフレットも受け取らないように」ジョヤ爺さんはそう言って、仕事仲間との会合に向けて出発した。なんでもこのあたりではなく、別荘だか保養地だかで集まるらしい。「要するに交流会だ、これも断ったら良かったんだが」

ポーチから降りる足音は名残惜しげだった。

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