第2話
コツコツとブーツが音を鳴らす。
広く、静かな廊下に響き渡る。
向かう先は謁見室。
重厚な扉を片手で開け放つ。
そこに広がるのは赤。血に染まる室内。
王座とも呼べる椅子には壮年の男が座っている。
否、その手足は薔薇の蔦で貫かれ縫い付けられていた。
「この城の全てを殺した。我が一族を滅ぼした貴様等人間をな」
ブラウローゼは男を睨み、告げた。
男のオパールの瞳は懇願するように返される。
懇願を吐くはずの口は細い薔薇の蔓で縫われ、吐き出せない。
「我らは密やかに繁栄した。この狭い霧の城で。人間を害することもなく」
血濡れた剣を一振り、こびり付く赤を払い、ブラウローゼは近付く。
眼の前に立てば、一切の躊躇無く切っ先が憎い男の肩を貫く。
蔓に鬱がれた奥から籠もった悲鳴が上がる。
「それが何故、我らを攻めた?貴様等人間と異なる化け物――吸血鬼一族だからか?」
怒りを表すように雷は焔のような紅に瞳を染めた。
恐怖におののく男に酷薄に嗤う。
「幼子を捕り、女を吊し、脅し、殺し、壊し……欲しかったのか?永遠を。化け物を畏怖する貴様等が、化け物の永遠を望むのか?」
力を込められた剣が肉を巻き込みながら回される。
刃が肉を抉る。
醜い絶叫が上がる。
「憎き貴様を俺は許さない。絶対に」
剣から手を放し、白かった手袋に覆われた指先が音を鳴らす。
その音に誘われるように男は憎しみに燃える瞳から視線を背後に向け、見開いた。
ブラウローゼの背後、およそ三メートルともなる空中にローズピンクのドレスを纏う少女がいた。
その瞳は宝石オパールのよう。
「貴様の娘か?同じ宝石の瞳をしていたが」
男は何かを叫ぶが音にはならない。それでも何かを叫ぶ。
「何を言いたいかは分かる。が、貴様は二十年前。同じ絶叫を聞いたのか?」
指先が下へと振られた。
同時に、少女は勢い良く床に叩きつけられる。
鈍い音が謁見室に響き渡った。
男が絶叫する。
「まだだ」
ブラウローゼは冷たく放つと、少女の身体は再び空中に浮かび……叩きつけられる。
何度も。何度も。
少女の腕が、足が、首が。
どのように歪もうとも。
ローズピンクを真っ赤に咲かせても。
男は言葉とならない絶叫を続ける。
「そうだ。俺が叫んだ声は、痛みは、貴様らは聞きはしなかった!!」
砕ける音が響く。
少女の金の髪が飛散した。
血肉と脳髄と共に。
男は眼球を落とさんばかりに見開いていた。
「力を奪われ、意識のみ覚醒したまま、全て壊され封じられた俺の痛みを……貴様は理解できまい!」
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