運命を切り裂く一撃

 先輩のSSレア武器、『鬼丸』のお陰で、膨大な魔力を持つヴェノシアを倒す方法に算段がついた。


 視界の端に映る制限時間は、あと五分ほどになっている。

 このタイムリミットが終われば、俺は戦闘不能になる可能性が高い。

 それまでにできる限りヴェノシアの行動を縫い付けて……削る!

 プシュゥゥゥ……、と背部の排気口から排熱を終えた俺は、再度ヴェノシアへと攻撃を始める。

 俺はヴェノシアへと右手を突き出した。


「あら、何かしら」


 ヴェノシアが首を傾げる。


吐息ブレス


 俺がそう言った瞬間、右手からドラゴンのブレスを上回る、超高熱のレーザーが発射された。


「なっ」


 俺の放ったブレスに、ヴェノシアが初めて驚愕したように目を見開いた。

 高熱の光がヴェノシアを焼く。

 そしてブレスが収まると、ヴェノシアが『魔界』と呼んだこの世界に変化が訪れた。

 ブレスの射線上、背後のステンドグラスの先に、穴が空いており、そこからはオレンジ色の空が覗いていた。

 間違いない、あれは綾姫の病室の窓から見えていた空だ。

 つまり、この魔界とやらは綾姫の病室の中に作られているということだろうか。

 病室の中に作られたにしては明らかに病室よりも大きいが、それは凛華や清華の作る世界だって同じだ。


「まさか、魔界を破壊できるほどの力があるなんて、思いもしなかったわ」


 ヴェノシアの言葉とともに、穴が空いたステンドグラスが影によって塞がれていく。

「そのステータスで、それだけの力を手に入れるのに、どれほど想像を絶する苦悩と苦労があったのかしら……あぁ、想像するだけで堪らないわぁ」


 喜悦の笑みを浮かべるヴェノシア。

 そこに迫る影があった。


「油断してると……死ぬよ?」


 鬼丸を振りかぶった先輩が、その無骨な質量の塊を振り抜く。

 ヴェノシアは油断していて先輩の接近には気が付かなかったのか、いきなり至近距離に迫っていた先輩へ驚愕の目を向けた。


「『影棘城シャドウ・ソーン・キャッスル』──っ!!」


 ヴェノシアは焦った様子で魔法を発動し、先輩の攻撃を影の棘を何本も床から生やして防ごうとする。

 しかし魔力から生成されたそれは、『魔力を吸収する』という能力を持つ鬼丸によって、魔力を吸収され、脆くなったところを叩き折られる。

 そして鬼丸はヴェノシアの左腕を……消し飛ばした。

 ついにヴェノシアは玉座の近くから飛び退いた。


「くっ……!!」


 ヴェノシアは腕を再生しようとするが、さっきまでとは違い、その速度は遅かった。

 その様子を見て、ヴェノシアは冷や汗を浮かべる。


 ──畳み掛けるなら、今。


 言葉を交わさずとも、俺と先輩は通じ合っていた。

 俺は噴射口から炎を吹き出し、先輩は魔力圧縮で強化した脚力で瞬時にヴェノシアへと近づく。

 先輩と俺はヴェノシアへと近づく。

 俺はブレスを至近距離で放とうと、先輩は鬼丸で頭を消し飛ばそうと振るう。


 その時、ヴェノシアの口元がニヤァ……とつり上がった。


「──本当に、私が苦戦してると思った?」


 その言葉とともに、ヴェノシアの足元から薔薇の形の魔法陣が展開された。

 それは俺と先輩を範囲の中に収めており、足元から影の棘が何本も伸びてくる。


『ぐっ……!?』


 俺と先輩はその棘が作る檻に閉じ込められる。

 先輩はすぐに鬼丸を使って脱出しようとするが、なぜか鬼丸を近づけても影の棘は脆くならなかった。


「どうして……っ!」

「別に、おかしなことではないでしょう? だって、魔力を吸い取られるなら、その分魔力を注げばいい話なんだから」

『そんな馬鹿な……っ!?』

「そうだ、もう一つ良い忘れていたけど、気を付けてね」


 ピシッ。

 ヴェノシアがそう言った瞬間、鬼丸にヒビが入った。


「ああ、やっぱりね」

「なにをしたの……!」

「私は何もしてないわ。ただ単に私がしたのは影の棘に魔力を注いだだけ。その棍棒は魔力を吸収する限度に到達したのよ。いくら魔力を吸収できると言っても、限界はあったということね」

「く……っ!!」


 魔力吸収で折れないのなら、力付くで折ればいいだけだ。


竜撃バースト……ッ!!』


 俺は全力を込めて影の棘を叩き折ろうとする。

 しかし棘は全くびくともしなかった。


「そう言えば良い忘れていたけど、棘は魔力を注げば注ぐだけ固くなっていくの。でも大丈夫。私が注ぐよりも多い魔力量で攻撃すれば、きっとその棘は折れるはずよ。ほら、早くしないとどんどん棘が固くなっていくわよ、頑張って」


 ヴェノシアの魔力量に勝てるはずもなく、檻はみるみるうちに脱出不可能な檻へと変化した。


「尊さん……っ!!」

「お兄ちゃん……っ!」


 清華と綾姫が叫ぶ。

 SSレアの魔力吸収限度を超えても尚余裕があるヴェノシアの魔力量。

 絶望的なまでの、魔力の差に俺と先輩はなすすべが無かった。


『俺達の油断を誘っていたのか』

「そうよ。私がピンチになったように見せかけて、こうやって力の差を見せつけて上げれば、絶望すると思ったの。まぁ、予想とは違ったけど……」


 ヴェノシアはその白く細い指で、先輩の頬をなぞる。


「ああ、いいわぁ……その顔、悔しがっているのね! すごくいい!!」

「くっ……!」


 ちょうどその時、俺の竜人化の制限時間が終わり、俺の竜人化が解除された。

 竜人化が解けたことにより、ただの死に体になった俺は地面に膝をつく。

 ヴェノシアは手に棘のある鞭を持つ。


「『幻愛げんあい麻痺花まひか』」


 そして鞭を振るうと、その棘の生えた鞭が伸びて、俺と先輩を掠めていった。

 棘が掠めた瞬間、視界がぐらりと歪んだ。


「これは……っ!?」

「なに、これ……!」

「効くでしょう? 私特製の麻痺毒よ。後遺症もないから安心してね」


 動けなくなった俺と先輩を見て、ヴェノシアは棘の檻を解除する。

 そして床に倒れ込んだ先輩の首を持ち上げる。


「さて、じゃあ親しい女性が目の前で殺されたらどんな素敵な感情を見せてくれるのか、試してみましょうか」

「ぐ……」


 身体が麻痺している先輩は首を締められ、苦悶の表情を浮かべる。


「っ!」


 この状況を見て、清華が結界を解除し、動こうとした。

 しかし……


「ああ、邪魔しないでね」


 ヴェノシアが清華と綾姫の結界へと手を向ける。

 すると半円球の結界に絡みつくように棘の生えた蔦が絡みついた。


「あなたはどんな表情を見せてくれるのかしら、絶望? 憎悪? 悲哀? ふふ……楽しみで堪らないわ」


 ヴェノシアが、どんどんと先輩の首を締めていく。


 動け。

 今動けるのは俺しかいない。

 動かないと、先輩が死ぬ。


「尊さん……っ!!」


 清華が蔦の隙間から護符のようなものを投擲してきた。

 それが触れた瞬間、俺の身体から麻痺が抜けた。


 俺は力を振り絞って駆け出した。


 手に神王鍵を取り出す。


 運命切断は使えない。

 いや、使えるはずだ。

 使えなきゃ、先輩がここで死んでしまう。

 お前もSSSレアなら発動しろ。


 たとえここで死んだとしても。


「うおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!!」


 俺の気合いに答えるように、神王鍵が光りを放つ。


 限定的だが、ヴェノシアによって封印されていた運命切断の力が戻ってきたのだ。

 斬撃は飛ばせない。なら直接叩き切ればいい。

 全身の魔力を圧縮して、渾身の一撃を叩きつける。


「なっ」


 ヴェノシアが目を見開く。

 先輩の首を掴んでいる手を──切り落とした。


「先輩……!」


 崩れ落ちた先輩を俺は抱きとめる。


「まさか、封印した力を使うなんて……」


 ヴェノシアは忌々しい顔で斬り落とされ……手をもう片方の手で包みこんでいた。


「もういいわ。あなたはここで抹殺する……」


 笑みの消えたヴェノシアが俺へと手のひらを向けた時。


「それはできない相談だ」


 ステンドグラスが割れ、ある人物が入ってきた。

 それは……


「魔女……!?」


 俺は驚愕に目を見開いた。

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