虚飾の英雄


 これまでとは違う、『最弱』の頃とは質の違う注目。

 しかし、やはり嘲笑するような色もそこには混ざってくる。

 ギルドで俺を見ながら会話している冒険者たちがいた。


「おい、あいつ……」

「ああ、スタンピードを一人で討伐したやつか」

「はっ、あんなのただの武器頼りだろ。武器のスキル打って数減らしただけじゃん。俺でもできるって」

「はは、あんだけジャラジャラ装飾品つけてら、そらなぁ?」

「『虚飾の英雄』サマは今日も金ピカだな」


 ガハハ、と笑い声が響く。

 あの配信は瞬く間に広がった。

 ギルドでは注目を浴びるようになったのだが……こんな感じに舐められるのは終わらない。

 俺がFランク冒険者である、ということもそれに一役買っているようだ。


 そしてつけられたあだ名は『虚飾の英雄』。


 武器や装備に頼りっきりで、まるでデカい功績を残したように褒めそやされている俺を皮肉った名前だ。

 そしてそれと同時に、Fランク冒険者のくせに高価な装飾品やアイテムを大量に持っている俺への、僻みと嫉妬も混じっている名前でもある。


 まあ、あながち間違ってないと思う。


 俺だってスタンピードではただ武器と装飾品の力に助けられただけだと思ってるし、実力が足りてないのは百も承知だ。


 外見をきらびやかな装飾品で飾り立て、本当の実力は低い俺にはピッタリの名前だろう。


 セレーネから教えてもらったネットでの俺のあだ名である『成金王子』や『金ピカチャラ男』よりはマシだ。


 言い返すつもりもなかったので、早くギルド長のところに向かおうとした。


「おい」


 しかし、俺の目の前に道を塞ぐようにガタイの良い男が立ちふさがる。

 男からは強いアルコールの臭いがした。

 どうやら朝から酒を飲んでいるらしい。

 ギルドには食事処が併設されており、自由業である冒険者は朝っぱらから酔っ払ってることも稀ではない。


「どいてくれ。用事があるんだ」

「お前、最近持て囃されて調子に乗ってるみたいじゃねぇか」


 男は俺を睨めつける。


「Fランクのくせに、強い装備と武器でイキって楽しいか? 『虚飾の英雄』さんよぉ」

「俺は別に持ち上げてくれなんて言った覚えなはない」

「よく言うぜ、あんな目立つように配信に映りやがって。本当は一番目立つタイミングで映れるにタイミングを狙ってたんじゃねぇのか?」


 目の前の男がそう言うと、周囲の冒険者たちはガハハ、と笑い声をあげる。

 明らかに酔っ払いのダル絡みなのだが、目の前の男の仲間であろう冒険者たちは止める気配すら無い。

 昼以降はまともな冒険者も多いんだが、まったく、朝っぱらからギルドに居る冒険者はろくでもないやつらばっかりだ。


「それで、気は済んだのか? そこを通してくれ、約束があるんだ」


 俺は男の横を通り抜けようとする。


「おいおい、待てよ」


 しかし男は強引に肩を掴んで、俺を押し戻した。


「ここを通りたかったら力ずくで通ってみろよ。本当にお前が強いんなら、ここを通れるよなぁ?」


 男は俺を馬鹿にするような笑みを浮かべ、両手を広げる。

 これは俺に対する挑発だ。

 所詮Fランクの俺では、自分を押しのけて通ることは出来ないと思っているのだろう。


 ギルドの中の冒険者から視線を浴びる。

 俺はちらりとギルド嬢の方を確認した。


 ……今ので正当防衛は成立するな。


 俺はちゃんと正当防衛の証人がいることを確認してから男に向き直る。


「降りかかる火の粉は払っていくぞ」

「実力でかかってこいよ」


 俺はそう言われて、全身につけた装飾品を──外さなかった。

 もちろん全ての装備をつけて、ステータスを強化した状態で男の鳩尾に拳を入れる。

 『重撃』を応用した体重を乗せた重い一撃だ。

 鳩尾に俺の拳がクリーンヒットした男は胸を抑えてうずくまる。


「ガハッ……!? てめっ……!!」


 男は苦悶の表情を浮かべながら俺を睨みつける。


「てめぇ……卑怯だぞ……ッ!!」

「誰がお前の土俵に乗ってやるって言ったよ」

「お前、なにしやがる!」


 男の仲間と思われる冒険者たちが立ち上がった。

 そして各々の武器に手をかけた瞬間、俺はそいつらに向けて神王鍵の切っ先を突きつけた。


 SSSレアアイテムの威圧。

 それに押され、仲間たちは後ずさった。

 魔物がいともたやすく首をはねられる映像は、全員知っているはずだ。


「別に、お前らが言ってる実力どうこうを否定しようとは思わないよ。でも戦いの中では装備と武器も含めて勝負になる。もし仮に殺されてもあの世で「実力なら俺が勝ってた」なんて言い訳するのか?」


 段田のときは装飾品なし、本当の実力で勝負を受けたが、あれは特別だ。

 俺が自分の力だけで乗り越えなきゃならない壁だったから、そうしただけだ。

 もし全力で戦うなら、正々堂々と戦うつもりなんて無い。


「どうする? 戦うのか? 先に手を出したのも、武器に手をかけたのはそっちだし、証人もいるから正当防衛は成り立つぞ」

「くっ……」


 流石に勝ち目がないと分かったのか、仲間たちは武器を収めた。

 それを確認した俺は神王鍵を収め、うずくまっている男の横を通り過ぎていく。


 俺はギルドの廊下を歩きながら、ため息を付いた。

 朝から面倒臭いことに巻き込まれた……。


 まぁでも、これでギルドにいる奴らには牽制できたから、これからはそうそう今みたいに突っかかってくることはなくなるだろう。

 ギルド長の部屋の前にたどり着いたので、俺はノックして扉を開けた。


「朝っぱらから呼び出してすまないね星宮くん」

「いえ、学校に行くついでに来ただけなので」

「そういえば、馬鹿に絡まれたようだね。すまない」

「特に問題ないですよ。面倒臭いだけで」

「あの馬鹿者たちには謹慎処分を出す。全く、ギルドでの揉め事はご法度だと何回も言っているだろうに、なぜ学習しないのだ冒険者という奴らは……」


 ギルド長は頭痛がしたのかこめかみを手で抑えている。


「そう言えば、連絡ってなんですか」

「ああ、そうだ。まずは君に一つ、嬉しい報告がある」


 ギルド長はそう言って机の引き出しを開けると、カードを差し出してきた。


「おめでとう。今日から君はCランク冒険者だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る