ダンジョンで、巨万の富を積み上げろ。〜「負け犬」と言われてパーティーを追放された俺、外れユニークスキル【ガチャ】でSSSレアアイテム『神王鍵』を手に入れ、自分だけのダンジョンで成り上がる〜
水垣するめ
一章 巨万の富を積み上げろ
外れユニークスキル『ガチャ』
約三十年前、世界各地にダンジョンが突如出現した。
原因は不明。
三十年が経った今も色々な説が噂されている。
ダンジョンは世界に大きな影響を与えた。
まず、ダンジョンから出てくる脅威である魔物。
ゴブリン、コボルド、オーク、スライム。
ファンタジーものの創作物でおなじみの存在だ。
地球の生命とは異なる生態系の彼らは、時折ダンジョンから出てきて人間に危害を加えるようになった。
そして、最も世界に影響を与えたのは『魔力』というエネルギーの発見だった。
元々世界に存在していたのか、それともダンジョンの出現とともに世界に魔力が満ちたのかは定かではない。
しかし魔力はそれまでの世界のあり方を、変えた。
魔力を宿した人間は常人を遥かに超えるような身体能力を獲得した。
そしてダンジョンにいる魔物から取れる魔石。
この魔石は魔力が凝縮して生成されたものであり、医療や研究、資源、加工品など幅広い分野に転用された。
当然、この魔石は奪い合いになる……はずだった。
その奪い合いが始まる前に、各国は魔石獲得や魔力に関する法的なルールを設け、魔石を管理するシステムを構築した。
同時に生まれたのが魔石を獲得する職業である『冒険者』と呼ばれる職業である。
冒険者は国の組織である『冒険者ギルド』に所属し、ダンジョンの中で魔物を狩って魔石を獲得し、それをギルドに売ることで金銭などの報酬を得ることができる。
この冒険者という職業は命の危険があるため、他の職種よりも報酬がよく、ダンジョンが現れて三十年がたった今、人気の職業の一つだった。
そして、俺、
「おい、星宮! 早く魔石を拾えよ! じゃないと次に行けないだろうが!」
ダンジョンの中、地面に落ちている魔石を集めている俺に、そんな罵声が浴びせられた。
浴びせてきたのは同じパーティーメンバーである
俺と同じクラスメイトで、このパーティーのリーダーを務めている。
「ご、ごめん……」
俺は段田に謝罪する。
だが、そもそも一人でドロップ品や魔石を拾い集めてバックパックに収納しているので、時間がかかるのは当たり前だ。
そんなに早く次に行きたいなら、自分たちもドロップアイテムを拾い集めればいい。
という文句を俺は飲み込んだ。
なぜなら、俺はこのパーティーの中で一番地位も発言権も低いからだ。
そしてようやく俺がすべての魔石とドロップアイテムを拾い集めると、すぐに段田たちパーティーは出発した。
もちろん俺の休憩なんてなし。
「いやー、やっぱり蓮のユニークスキル『剣闘術』、すごいよな」
「そうそう、さっきのでかいモンスターも一撃だったもんな」
ダンジョンの中を歩く最中、パーティーメンバーが段田のユニークスキルの話になった。
「いやいや、別にすごくないって」
「謙遜すんなよ。俺たちの学校でもユニークスキル持ちなんて、ちょっとしかいないじゃん」
「いや、まじで俺なんか普通だよ。だって、俺のクラスにももう一人ユニークスキル持ちがいるんだし。なぁ、星宮?」
段田はそう言って、バカにするような笑みを俺へと向けた。
来た。
これはいつもの流れだ。
俺を笑い者にするための。
「お前もユニークスキルもってんじゃん」
「おい、やめてやれよ。だってあいつのユニークスキル……」
パーティーメンバーは止めているが、それは形だけで俺をバカにするための前フリでしかない。
その証拠に、全員ニヤニヤと笑顔を浮かべている。
「いやいや、ユニークスキル持ってるだけでもすげーって。『ガチャ』とかいう全く使えないゴミスキルでもさ」
段田がそう言って肩をすくめた瞬間、どっ、と笑いが起こった。
「あ、あはは……やめてよ」
俺はヘラヘラとした笑みを浮かべる。
バカにされていることは分かってる。
だけど俺はとある事情から耐えるしかないのだ。
「なあ、もっかい『ガチャ』を引いてるところ見せてくれよ星宮」
「そうそう、もしかしたらなんかいいアイテムでるかもしれないし」
「でも、俺『ガチャ』一回引くのに魔力の三分の一を使うし、安全のためにも……」
「は? なに、俺たちに逆らうわけ?」
俺が断ろうとして瞬間、段田が睨んできた。
「い、いや……分かった、引くよ」
俺は慌ててユニークスキル『ガチャ』を発動する。
「ユニークスキル、発動」
俺がそう唱えると、目の前に魔法陣が展開された。
俺はその中に手を突っ込む。
俺の手が魔法陣の中へと飲み込まれる。
魔法陣の中でなにか掴んだ感触がすると、手を引き戻した。
そして俺は手の中のものを見て、ため息を付いた。
「またハズレか……」
手に持っていたのはただの拳サイズの石ころ。
『Eランクアイテム:石ころ』を手に入れました』
空中にウインドウが表示され、このアイテムがただのゴミであることを改めて伝えてくれる。
「うっわ、また石ころじゃん!」
「前に引いたときの木の棒よりマシじゃね?」
「どっちにしろゴミだけどな」
ギャハハハ、と笑い声がダンジョンの中にこだまする。
「まじで星宮の『ガチャ』ってゴミユニークスキルだな」
「俺だったらショックでもう引退してるよ」
「あ、もう満足したからいいよ、おつかれ」
段田たちは俺をひとしきり馬鹿にして満足したのか、またダンジョンの先へと進んでいく。
その背中を見て俺はバレないようにため息を吐いた。
俺のユニークスキルは、『ガチャ』。
効果は『魔力を消費して、ランダムなアイテムを引くことができる』という能力だ。
この『ガチャ』というユニークスキル、段田たちの言う通り、ゴミスキルなのだ。
まず、魔力を使用してガチャを引かなければならないのだが、このガチャを一回引くために魔力の三分の一を使用しなければならない。
使用する魔力自体は低級の魔法一回分程度で並のハンターならそこまで負担にはならないが、俺の冒険者としての適性は……最低レベル。
魔力の低い俺からしたらダンジョン攻略で必要な魔力を三分の一消費してしまうのはキツすぎる。
それに加え、俺は昔からとても運が悪い。
ジャンケンは必ず負けるし、ソシャゲのガチャでは最高レアのアイテムを引いたことすらない。
当然、『ガチャ』から取り出せるのも石ころや雑草なんかのゴミアイテムばかり。
つまり、俺にとってこの『ガチャ』というユニークスキルは相性が最悪なのだ。
(俺にもうちょっと冒険者としての才能があれば……いや、これはただのないものねだりだな)
ないものを嘆いたって始まらない。
どれだけ馬鹿にされようと、俺はこの能力でやっていくしかないのだ。
絶対に達成しなければならないことがあるのだから。
***
ダンジョンでの狩りが終わった後、俺はとある病院にやってきていた。
病室の扉を開ける。
「お兄ちゃん」
「綾姫、どうだ。どこか調子は悪いところはないか?」
「もー、大丈夫だってお兄ちゃん。心配しすぎ」
ベッドの上で呆れたように笑っているのは俺の妹、
「心配しすぎってことはないだろ、病人なんだから」
「毎日ポーションは飲んでるんだし大げさだよ」
綾姫はこう言っているが、実際の綾姫の身体は病魔に侵されている。
末期癌。それが綾姫の身体を侵している病気の名前だ。
本来なら余命あと数ヶ月もないところだが、ポーションを飲むことで癌の進行を抑えているところだ。
「これ今日のポーション」
「ありがと……」
俺は今日の分のポーションを綾姫へと渡すが、綾姫はどこか浮かない顔だった。
「それより、さ……今日もダンジョンに行ってきたの?」
「当たり前だろ。お前のポーションを稼いでこないと」
「でも……毎日ぼろぼろになってるじゃん。お兄ちゃんの負担になるなら私が……」
「何言ってんだ!」
俺はつい叫んでいた。
ハッと我に戻ると、綾姫に謝る。
「……ごめん」
「ううん、こっちこそごめん。お兄ちゃん」
俺は安心させるように綾姫の頭を撫でる。
「大丈夫だ。冒険者として稼いで、綾姫の病気も直せるエリクサーを買ってきてやるからな」
「……うん」
と、その時スマホを見てみると、すでに面会時間の終わりが迫ってきていた。
「と、こんな時間か。じゃあ綾姫、また明日ポーション持ってくるからその時な」
「わかった。じゃあね、お兄ちゃん」
俺は綾姫に挨拶をして病室から出ていった。
「エリクサー、か」
家までの道を歩きながら、俺は一人呟く。
それはすっかり暗くなっていた。
エリクサー。万能の霊薬。
すべての病気を治癒し、切断された腕すら再生すると言われている、この世に存在する中で最も価値の高いアイテム。
エリクサーなら綾姫の癌だって治癒することは可能だ。
だが、そこまでの薬となると当然恐ろしく値段が高い。
値段はなんと、1000億円だ。
1000億。俺にとっては途方もないほどの大金だ。
「でも、いくら高くたって買うしかない」
ポーションで癌の進行を止めると言っても、限界がある。
毎日ポーションを飲ませても、綾姫の命はあと持って一年だと医者から言われている。
つまり、それまでに1000億円を貯めなければならないのだ。
綾姫は、俺に残った最後の家族だ。
両親は綾姫の治療費を稼ぐために冒険者としてダンジョンに潜り、魔物に殺された。
だから、綾姫を助けられるのは俺しかいない。
「あと一年で千億……」
現実は厳しいが、諦めるわけには行かない。
ダンジョンは一攫千金を狙える場所。
過去にレアドロップ品で一夜にして億万長者になった人間はザラに居るし、それに俺のユニークスキルである『ガチャ』からもレアアイテムがでる可能性だってある。
そうだ、希望を捨てるには、まだ早い。
「絶対に、1000億稼いでやる」
俺は改めてそう宣言したのだった。
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