第40話 食べたいものを食べる
戸越銀座の駅を出て左手の方へとルンルンで歩き出した雪野は、戸越銀座商店街の大きなアーチを見て子供みたいに目を輝かせる。
谷中銀座の時もそうだったが、雪野はこういう商店街みたいな店が集まっている場所が好きみたいだ。
まぁそれは雪野だけじゃなくて、俺も好きだから一人時間の頃から歩き回っていたんだけど。
最初はどこにするつもりなのか雪野の動向を気にしていると、戸越銀座に入ってすぐに雪野はパッと目を見開いた。
「温森くん、まずはここにする」
「ここ……? お、おお……」
雪野が指差した方にあったのは、大きなたい焼き屋の看板だった。
意外にも最初はスイーツで来たか。
十勝産あずきを使っているようで、中のあんこが今にも飛び出そうなくらい膨れ上がっているたい焼きの写真は、見るからに美味しそうだ。
「ガッツリをテーマにしたのに最初がたい焼きってのは意外だな。雪野のことだから揚げ物からだと思ったよ」
「もぉ……まるでわたしが高カロリーなものばかり食べるみたいに言わないで」
ムスッとした顔で雪野は言う。
これまでのことを考えると、言葉通り高カロリーなものばかりだと思うんだが……。
「色々考えたんだけどね、わたしの思うガッツリはわたしの好きなものをいっぱい食べることだと思う」
「好きなものをいっぱい?」
「それにわたしはまだたい焼きを食べるなんて言ってない」
な、なんだと……?
「でも雪野、ここってたい焼きがメインなんじゃ」
「ふふふっ、わたしが食べたいのはあっち」
雪野は店の前にあるメニューの方を指差す。
「ん……? たい焼きじゃなくて、アイスもなか?」
「そう。わたしはこのお店の抹茶アイスもなかを食べたいっ」
雪野はこの店の看板商品である『たい焼き』ではなく、抹茶のアイスもなかを食べたいらしい。
「そ、そう来たか」
思えば雪野の一番の好物は揚げ物ではない。
雪野が一番好きなのは、浅草でも堪能した抹茶スイーツだ。
「だから最初に抹茶……なるほどな」
てっきり揚げ物とか高カロリーなものばかりだと思っていたが、雪野にとってのガッツリは好きなものを堪能することなんだもんな。
「温森くんはどうする? たい焼き?」
「そうだな。雪野が抹茶アイスのもなかにするなら、俺がたい焼きにしないと
「むぅ……!」
雪野が眉間に皺を寄せながら俺を睨んで来る。
「な、なんだよ」
「すぐにわたしが食いしん坊みたいに言わないで」
いや、誰がどう見ても食いしん坊だろ。
どうやら雪野基準ではこれまでの大食いは食いしん坊の部類に入らないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます