第36話 雪野の選択


 ——翌日。


 いつも通り放課後の保健室まで来た俺は、雪野に次の行き先について提案することに。


「雪野、お待たせ」

「……うん、待ってた」


 ニヤリと口角を上げた雪野はソファに俺を手招きする。


「雪野が食べたいものを聞いて、ガッツリってどんなものだろうって色々考えたんだ」

「……うん」


 雪野は小さく頷いて期待な眼差しを俺に向けた。


「そこでさ、次は雪野が求めるガッツリを、ゆきの自身が選べる街歩きをしたいと思って」

「わたしが選べる……っ!?」


 雪野は強く反応を示して、ソファで隣に座る俺の方にキラキラした目を向けて来る。


「こ、これまでの二人時間って、俺が行く店とかを提案して、それを雪野に付き合ってもらう形だったからさ」

「つまりルートをわたしが選ぶってこと? でもわたし、あんまりスポットとかお店とか知らないけど……」

「大丈夫。俺が提案したいのは、雪野に全てを任せるんじゃなくて、雪野に自由に選択してもらいたいってことだ」

「どゆこと?」

「色んな選択肢が集まってるスポットに案内するから、雪野は自由に自分の食べたいものを選んで欲しいんだ。つまり次の二人時間は雪野がコースを選んで自由に楽しんで欲しい」


 これまで行った2件の二人時間は、雪野の要望に応える形で俺が選択してきたけど、今回のリクエストを聞いた時、雪野自身の気持ちをもっと大切にしたいと思った。


 雪野には色んな選択肢を与えられるあのスポットで、雪野自身に選んで、自分で決めることの楽しさを感じて欲しい。


「わたし、しっかりできるかな」


 やはり雪野は自身なさげな顔をした。

 雪野の性格的に、周りに気を遣いすぎるところがあるからこうなることは想定済み。


 でも雪野にはそろそろ自分に自信を持ってもらいたい。

 それが一つの"きっかけ"になるかもしれないし。


「もっと自信持てよ雪野。まだ部活にはなってないけど、部活になったら雪野は部長なんだ」

「部長……っ! わたし、なの?」

「当たり前だろ? 二人時間が部活になったら雪野が代表なんだから。俺はそれを支える」

「温森くんが……わたしを」


 雪野はもじもじしながら少し嬉しそうにニヤけた。


「わたし、頑張るっ。部長だもん」


 雪野の顔に自信が表れる。

 よし、雪野もやる気を出してくれたな。


 二人時間は二人の時間なんだから、雪野が選ぶ街歩きもしてみたい。


 まぁ、とりあえず雪野の選んだガッツリグルメに俺の胃が持つかどうかの我慢比べになりそうな予感がしていた……(やばいな)。

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