切ない思い出

@Rin-ringo

あのときどうすれば

 りかは現在社会人4年目で、保険会社に勤めている。実家から離れて一人暮らしをしており、休みの日は特に何をすることもなく、家に一日中引きこもっていることもあるような日々を送っている。

 りかには、大学卒業から4年経った今でも、ふと思い出す出来事がある。それは、大学時代に交際していた「ゆうと」との別れだった。


 「誕生日おめでとう!」

 りかとゆうとは大学のサークルで知り合い、りかがゆうとの誕生日に、誰よりも一番先にこのメッセージを送ったことがきっかけで、ゆうとはりかのことを意識し出した。もちろんりかもゆうとのことが気になっており、意識させるために行った作戦だった。りかの作戦勝ちである。その後はお互いメッセージを送り合ったり、サークルで話したりして距離を縮めていった。

 しかし、どちらも肝心なことを言わず、いつも何事もなく終わってしまうのだった。やきもきしたりかは、

 「どうしていつも遊んだりメッセージくれたりするの?」

 と言い、ゆうとに

 「好きだから。」

 と言わせた。また、りかの作戦勝ちである。

 その後、二人はとても仲が良いと評判のカップルになり、とても幸せな日々を送っていた。

 旅行などにもたくさん行き、二人だけの思い出をたくさん作って、ついにはりかの家にゆうとが毎日寝泊まりするという、半同棲の形で生活していた。

 しかし、毎日一緒に住むとなるとお互いの良くないところが目に見えてわかるようになり、言い合いのケンカをするようになった。時には、

 「もう帰って。」

 と言ってりかがゆうとを追い出す形でケンカをするようにもなった。

 4年生になると、お互い自分の卒業後の進路に向けて動きだし、一緒の家に寝泊まりはしていても、すれ違いはさらに多くなった。りかは就職を希望していたが、ゆうとは大学院への進学を希望していたのである。

 りかの就職が決まり、ゆうとも大学院の試験を終えて進学が決まった頃には、もう秋が終わりかけていた。この頃は、お互い卒業論文に向けて必死に研究をしていたため、二人の溝が埋まることはなかった。特に今後について話し合うこともなく、ただただ時間だけが過ぎていった。同じ空間にいても、お互いが別のことをやっている。りかはそれに不満を感じてはいたが、ケンカをしたくないので何も言わなかった。しかし、今後自分達がどうなるのか、遠距離になっても続けるほどなのか、など漠然と考えていた。

 そして、卒業式当日。りかは晴れ晴れとした気分で迎えようとしていた。この時、引っ越しのためにりかの両親が来ていたため、ゆうとには自分の家に戻ってもらっていた。

 りかは研究室などに挨拶を済ませ、これから新しい土地へ行こうとしていた時に、また今度会うにしても、今ゆうとにお別れの挨拶がしたいと思いメッセージを送った。

 「今どこにいる?今からここを出るから、一回会って話したい。」

 「ごめん。今忙しいから無理。」

 りかは、ゆうとの心がここまで離れていたことにショックを受けた。

 私、まだ一応彼女だよね?なのに最後の挨拶すらしてくれないの?

 りかは電話を掛け、ゆうとが出たので

 「最後に会えないの?」

 震える声でそう言った。

 「うん。ごめんね。」

 と言ってゆうとは電話を切った。

 りかは、両親が運転する車の中で静かに、気付かれないように泣いた。


 あれから4年経った今でも、その時のことを鮮明に思い出す。

 あのときどうすれば、私たちは上手くいっていたんだろう。

 恋人ができたときでも、そのことを考える日がある。ゆうとが、最後に会ってくれさえしなかったことのショックを、未だにトラウマとして抱えているのかもしれない。

 でもきっと、ゆうととは上手くいかない未来だったんだろうな。

 そう思いながら、りかは一人でご飯を食べている。

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