第4話 終わったあとは、甘い話を


 事を終え、裸でシーツにくるまる。さっきのほうが近くにいたはずなのに、隣り合って触れる素肌になぜだかそわそわしてしまう。

(この人、すごく相性良かった……)

 よく体の相性が良いとか悪いとか言うが、これまで夏美はその言葉を真の意味で理解できていなかった。というのも、たくさんの男性と行為をシつつも、「誤差」くらいにしか人による相性の違いを感じてこなかったからだ。

 そもそも前提としてセックスは気持ちがいい。相手とのコミュニケーションでもあり、普段の自分からの解放でもある。だから、楽しむ。とことんバカになる。

 ただその普段とのギャップがあってこそ、楽しいものだったのだと思う。

 しかし、今日は違う。どうしたって体の相性があることを感じずにはいられなかった。肌が吸い付くようだというありきたりな表現が、今日はしっくり来た。挿入した相手のものが、自分の一番欲しいところをつく。肌が触れ合うたびに、胸の奥がときめく。

(もう一回……シたい)

 夏美は男のほうを見た。男はすでに興味をなくしたのか、窓の外を見つめているようだった。

「ねぇ」

「……」

「もう一回シない?」

「……興が冷めた」

「そっか……」

 二度目を夏美から誘うことは、実はそれほど多くない。一度果てれば、さっぱりと欲求はなくなる。そこはどこか、出してしまえば欲がそげる男性と似ていると思っていた。

 だから、それなりに二度目を誘うのは勇気がいったのだ。それでも、誘いたいと思うほどに。

(……ちょっと悲しい……)

 セックスに意欲的でない男の気を乗せるのには挑戦的になれても、二度目のセックスの誘いを断られたらもうくじけてしまう。

「こういうのに、慣れているのか」

「え……あ、まぁ……」

 一応、こちらの心情を汲んでくれたのか、男から話題を出してくれる。

「そこそこ、かな。あなたは? 初めてではないでしょ?」

「……まあ」

「っていうか、あなたの名前は? 教えてくれないの?」

「……アイザックだ」

「アイザック……」

(本当に外国人なんだ……)

「他には? あなたのこと、教えてよ。どうせもうやることやっちゃってるんだから」

「別に、俺のことで話すことはない」

「今、いくつ?」

「嘘はいくらでもつける」

「そう。じゃあ同じくらいの歳かなって、思っておくね」

 相手が自分の話をしたがらないのは十分にわかった。だったら、夏美はそれ以上を詮索することはない。

 ただ、今はまだ余韻がほしい。

「ねぇ」

「ん?」

「くっついてもいい?」

「……好きにしろ」

 この男からその言葉を引き出せたことが、夏美の気分を上げる。夏美は男の腕に腕を絡め、横から抱きついた。

 まだ身体は火照っているはずなのに、本当だったら暑くて嫌になるような熱も、心地よい。

(今なら、本当に死んでもいいかも……)

 夏美は幸せな気持ちで、眠りについたのだった。


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