役立たずと追放された混血の竜人、竜王の実娘でした〜私は気にしていないのに周りが勝手に復讐してる……なんで?〜

蛾々らんまる

やり直し編

第1話 今日ギルドを辞めた

「君はなんでそんなに弱いんだ!」


「……へ?」


 次の仕事の話し合いだと思ってA級パーティ専用の待機部屋に座った途端、机を叩きながら怒られた。


 私はなにか悪いことしたっけ?

 弱いことを理由に怒られているのだから、今朝二人分のお菓子を勝手に食べてしまったことではないよね、昨日夜中にギルド長の部屋に忍び込んだあげく花瓶を倒してしまったことがバレたわけでもない。


 思い当たる節がなく、頭に手を当てながら考えていると怒ってる剣士――アレンが私の装備である大盾を蹴飛ばして怒鳴った。

 それギルドの貸与品だから傷つけないでくれ、修理に出すの私なんだから。


「こんな大盾を持って守るだけで戦おうとしない、これだから混血は使えないんだ!」


「そもそもグンダが無理やり竜人をパーティに入れようと言ったからですよ」


「すまない、ギルド長にも目をかけられてたし混血でも竜人なら戦力になると思ったんだ」


 混血の竜人と言われているのは私、ラヴァのことだ。火竜の父と人間の母を持つ私のような亜人は巷では混血と呼ばれ、竜人の両親を持つ竜人は純血と呼ばれる。この血統はなにかと比較され、混血はあまり好かれていない。


「大盾を持ってるのはみんなが経験を得られるように――」


「言い訳するなっ! 戦えないことを隠すためにタンクなんかしやがって、僕やグンダが攻撃してルーナが回復してくれなければただの木偶の坊のくせに!」


 全然話を聞いてくれなくて困った。

 私が重い大盾を抱えているのは仲間のため、S級を目指すみんなが上の世界でも戦える経験を得てほしいから生存率を上げるためにタンクを選んだんだけど、たぶんいろいろ勘違いされてる。


「君のようなやつがいたら僕たちはS級になんて上がれない、そもそも今でさえギリギリA級なんだ」


「すごいよね、A級パーティにしがみつけてるの」


「馬鹿にしてるのか!? A級にいられるのは僕たちの実力のおかげだぞ!」


 おっと、A級には一時なるだけでも大変なのに落ちず続けられてるのがすごいって意味だったけど違う意味に取られてしまった。長く人と過ごしても言葉足らずは直らないなあ、コミュニケーションって難しい。


「とりあえず三人で話し合った結果、ラヴァ……君にはパーティーを辞めてもらうことになった」


「……あえ!? 困るよそれ、私は冒険者パーティーに所属してるから街にいられるのに!」


「それは君の都合だろう。上を目指す僕たちにとっては迷惑でしか無いんだ、わかったら早く出ていってくれ!」


 また机をバンッと叩かれて、大盾を持って部屋を出ることになった。一抹の希望を胸にゆっくりと扉を開けようとして、振り返ると――


「辞退申請はしておいてくださいね」


「街にいたかったら他のパーティにでも頼むんだな、混血を拾ってくれるとこなんてねえだろうけど」


 なんて笑顔で追い打ちをかけられてしまった。


「も、もう困ってても助けてやんないからな! うわーんこの薄情者ー!」


 わざとらしく泣き真似をして部屋を出て、しばらく部屋の前に立っていると中では――


「聞いたか? S級のフェナさんがまた街を救ったらしいぞ」


「やっぱ純血の竜人は違うよな、前線で自ら戦って功績を上げてるんだから剣士として憧れるよ」


「混血は食費とるだけの獣ですよ、時間の無駄でしたね」


 なんて会話が聞こえてきてしまい、すぐに一階の受付まで行きパーティを抜けることを証明する書類と、ギルドを辞めるための手続きをすることになった。


 元よりかなり無理言って故郷を出てきたんだ。人と関わり続けるのは難しいと止める村人たちに冒険者パーティに居続けて人との関わりを絶たないことを証明する、できなかったら帰るという約束だった。


 でもなんか納得いかないし諦めきれない。


「……混血の竜人欲しい人ー?」


 受付から後ろを向いて手を挙げてくださいと言わんばかりに挙手して聞いてみたが、ものの見事に無視された。悲しい、本当に泣きそうだ。


「あの、本当に辞めちゃうんですかラヴァさん」


「約束だからね、パーティを抜けたら故郷に帰る。はあ……父さんに怒鳴られる未来が見えるよ」


 心配そうにしてくれているのは受付嬢のサーヤさんだけ、種族もランクも関係なく誰にでも優しく接してくれるこのギルドの癒やしだ。


「故郷に帰ったらサーヤさんに会えなくなっちゃうなあ……」


「そんな悲しそうにしないでください、ギルドを辞めても会えないわけじゃないですから」


「じゃあ竜種の村まで来てくれる?」


「それは、ちょっと……まあ時間があればですかね……?」


 やんわり断られて本格的に涙出てきた、もう無理かもしれない。床に転がって駄々こねたい、泣き叫びながら転がりたい。


「ラヴァ、まだいるな」


「ギルオジ?」


「ギルド長と呼べ……とりあえず来い」


 受付の奥から出てきたのは筋骨隆々のおっさん、ギルオジことギルド長のギルバートだった。ギルギルうるさいが元SS級パーティの冒険者で竜狩りと呼ばれたその力は引退した今でも健在、あの拳に何度泣かされたことか。

 最後の最後まで私に用があるなんてなんだろうか? 疑問に思ったが呼ばれたので着いていき三階のギルド長の部屋に入った。


「まあ座れ」


「もう辞めるってのになんの用だよ、これから荷造りで忙しい予定なんだけど」


「……お前、本当にギルドを辞める気か?」


 いつになく真剣な眼差しに、私も態度を変えて真面目に姿勢を正した。


「辞めるよ。村のみんなとの約束だし、無理矢理逃げたって父さんに連れ戻される」


「お前の親父さんには俺も世話になった、だからこそ俺のとこに預けてくれたんだが……こんな事になっちまうとは申し訳が立たねえな。俺にとってもお前は娘みたいなもんなのに」


「奥さんに逃げられたもんね……」


「てめぇの尻尾はいい素材になりそうだな、え?」


 火竜の尻尾は再生するが竜人だとかなり時間がかかる、故郷に帰って尾が切り落とされていたら竜種の村総出で街を滅ぼすことになるからやめて欲しい。


「冗談だよ冗談! ……でも辞めるのは本当、故郷でゆっくり過ごすよ」


「そうか、じゃあ預かってた剣も返す。親父さんによろしくな」


「ありがとう、短い間だけど楽しかった。たまに村に顔出してよ、父さんも喜ぶからさ」


 部屋の奥、重厚な鍵がかけられた箱から出した短剣を受け取って席を立つ。未練がないといえば嘘になるけど、竜人の私が人とともに過ごせたのはいい思い出だ。


「ああちょっと待ってくれ、最後に一つ」


「まだなにか――」


 用があるのかと聞こうとした時、ガツンと私の脳天に巨大な拳が振り下ろされた。


「あっだぁ!?」


「昨日部屋に忍び込んで花瓶割ったのはてめぇだろう、ギルドを正式に辞めるまでは制裁対象だ」


 結局バレてたのか。

 痛む頭を抑えながら謝って受付まで戻り、書きかけていた者類を書き上げて血判を押し、正式に私は冒険者ギルド『気高き狼の群れレギオンロボ』を辞めた。



――――――――――――――――――


【あとがき】

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カクヨムで初めて投稿する新参者ですが、何卒よろしくお願いいたします。


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