第4章79話:見切る

ニッシュが静かな怒気どきを込めて告げる。


「オレがザカルの下位互換だと? 斬られておいて調子に乗るなよクソガキ」


「まあ、初見でしたし。……でも、もう見切りましたよ」


「見切っただと」


ニッシュが目を見開く。


そして、クククと笑った。


「なあガキ? 今のがオレの本気だと思ってんのか? さっきの斬撃はせいぜい40%ぐらいだよ。まったく本気じゃねえ」


「えっと……そういうノリは、ジルさんとの決闘でさんざんやったんですよね」


私は続けて言った。


「だから、最初から本気で来てくださって構いませんよ。どうせジルさんと同じで、大したことないでしょうし」


「――――――――」


ニッシュが、さらに怒気を強めた。


彼は告げた。


「すこぶる腹立つクソガキだなぁテメエはよ! いいぜ、じゃあ本気の斬撃で切り刻んでやるよ!」


ニッシュが駆けはじめる。


二刀流を構え、私に飛びかかってきた。


「オラァッ!!!」


さっきより数段、速い!


ニッシュの振り下ろす斬撃。


私は後ろに回避する。


ニッシュの二撃目。


それを後ろにかわす。


次の攻撃も、


その次の攻撃も、


後ろにかわす。


「……!」


ニッシュも気づいたようだ。


私は告げる。


「だから言ったでしょう、あなたの攻撃は見切ったと」


さらに私は続ける。


「ニッシュさんのスキル――――【加撃斬火かげきざんか】は、横にしか発動しません。だから、あなたの攻撃を横に避けたら斬られますが、後ろに避けたら斬られないんですよね」


単純な話だ。


初見だと、まず回避できない攻撃であるのは確かだが……


タネがわかってしまえば、かわすのに造作もない。


しかし。


ニッシュは笑う。


「ははははは! ご名答だよクソガキ。よくこの短時間で見抜いたな! だがよ―――――」


ニッシュは告げる。


「その程度の対策ぐらいしてんだわ」


次の瞬間。


ニッシュが加速した。


疾走しながら、斬りかかってくる。


「……!」


後退して避けようとした私。


しかしニッシュのスピードが速すぎて、後退しきれない。


一瞬にして間合いを詰められる。


「ラァアッ!!!」


斬りかかってくるニッシュ。


このタイミングの攻撃は、横に避けるしかない。


後ろに避けられない。


だが。


「……!!?」


私が、チョコレート魔法を発動する。


自分のお腹から、無数の突起を出現させる。


チョコレート・ニードル。


チョコレートの針や突起を発生させる魔法だ。


勢いよく斬りかかろうとしてきたニッシュに、チョコレート・ニードルが炸裂する。


「くっ!!?」


このまま間合いを詰めたら、チョコレート・ニードルの餌食になると理解したのだろう――――


ニッシュは、慌てて立ち止まり、バックステップで後ろに下がった。


「相性の問題だと思いますが」


私は告げる。


「ニッシュさんのスキルは、間合いに入られなければ怖くありませんよね。そして私は、間合いに近づかせないすべを、いくつも持っています。なので……私にあなたのスキルは通用しません」


ニッシュが押し黙る。


そこで私は、小馬鹿こばかにしたように微笑んで、あおった。


「だから言ったじゃないですか? ザカルさんの下位互換だって」


「……ッ」


ニッシュがぶちぎれそうなほど、顔を真っ赤にした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る