第4章70話:ジル視点

<ジル視点>


ジルは、キトレルの街から遠く離れた都市にいた。


その都市の繁華街はんかがいには、とある酒場さかばがある。


酒場の地下は、裏の人間だけがつどっている。


ジルはそこで、ある人物と会っていた。


「久しぶりだな、ジル」


「ああ、探したぜ。ドレアスさん」


――――ドレアス。


年齢136歳。


大柄な体格。


黒髪のほつれた髪。


鋭い瞳。


シワの刻まれた顔。


ほどよく生えたヒゲ。


危ない雰囲気をかもしているオッサンである。


漆黒の戦闘衣服をまとっている。


ドレアスは、ジルの師匠であった。


もちろん殺し屋である。


「風の噂で聞いたぜ? お前、逮捕されそうになったそうだな」


とドレアスが言った。


「ああ。……まさにその件で、あんたを探していたんだよ」


そう。


ジルは、脱走してからずっとドレアスを探していた。


さんざん自分を侮辱し、圧倒した、憎きセレナを殺すためである。


ジルは、ドレアスに言った。


「あんたの力を貸してくれ。殺してほしいやつがいるんだ」


「ふむ」


「セレナっつーガキだ。俺はそいつにやられて、牢獄にぶち込まれそうになった」


「ガキにやられたのか? それは傑作だな」


「笑い事じゃねえ。あのガキはバケモンだ。だから、あんたの力を借りてえんだよ」


ジルが真剣な顔で、ドレアスに懇願する。


ドレアスは肩をすくめた。


「ジル。昔の俺たちは師弟していだったが、いまは赤の他人だ。他人に殺しの依頼をするときは、どうすべきかわかるだろ?」


「ちっ……カネかよ。1000万リソルでどうだ」


「2000万リソル」


「……1300万」


「1700万」


「わかったよ。1500万払えばいいんだな?」


ジルの言葉に、ドレアスは微笑んだ。


「ああ。1500万で構わん。だが、今は持ち合わせがないんだろ?」


「いや、ある程度はある。が、さすがに1500万をポンと出すのは無理だ」


「だったらツケにしておいてやる」


交渉成立である。


ドレアスは言った。


「しかしお前がバケモンと呼ぶぐらいだから、相当強そうとうつえんだろうな、そのガキは?」


「ああ、強い。俺じゃ相手にならなかった」


「そうか。どんなやつなんだ?」


「それがな―――――」


ジルが、経験したことを話す。


ジルにとっては負けた決闘の話なので、口にするのも屈辱的ではあった。


しかし、それ以上に、セレナの情報をできるだけ伝えたいという想いが勝った。


セレナをぶっ殺せるなら、ジルにとってこの程度は恥ではなかった。


「ふむ……」


ドレアスは困惑した顔をした。


「つまり、異様に打たれ強く、攻撃力も高い。攻守ともに図抜けたガキだということか」


「そうだ」


「しかし、いまいちわからんことも多いな。できれば、実際に戦ってる場面を見てみたいところだ」


ドレアスはあごをさすりながら、告げた。


「よし。とりあえず、ごまを差し向けよう」


「捨て駒?」


「ああ。俺に弟子入でしいりしてきた4人組がいるんだがな。これがまた使えない連中なんだ」


「そいつらを捨て石にするのか?」


「おう。見込みのないやつらを、いつまでも面倒見る気はねえからな」


とドレアスは笑う。


さらにドレアスは言った。


「その4人組と戦わせて、セレナっつーガキの力量をはかる」


「……瞬殺しゅんさつされて終わるだけだと思うがな」


「それでもわかることは沢山ある」


ドレアスの言葉に、ジルは納得する。


ドレアスの基本は、分析だ。


相手の魔力や戦闘技術から、攻撃パターンを予測し、頭の中で対処法を組み立てる。


それがドレアスの殺し屋としてのスタイルだ。


ドレアスは言った。


「決行は冬が明けてからにしよう。それまでに、いろいろ準備を整えておくさ」


「ああ。頼んだぜ」


セレナを殺すためにドレアスが動き出すのだった。

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