第4章63話:家2

(作れるかな……?)


と、少し不安になる。


これまで私は、チョコレートでさまざまな物品ぶっぴんを製作してきた。


チョコレートの椅子。


チョコレートの剣。


チョコレートのかご


しかし家となると、椅子や剣を作るのとはワケが違う。


ただ。


実は、私には建築学けんちくがくの知識がある。


なぜなら、いつかチョコレートの家を作りたいと考えていたからだ、前世で!


残念ながら、その夢は叶わなかったが。


しくも異世界で、夢を達成できそうである。


(家というのは、つまるところ、壊れなくて、住めればいいのだ!)


と、私は思う。


難しく考える必要はない。


家を作ろうとするから混乱するのだ。


『壊れなくて、寝泊まりができる箱』を作ればいい。


具体的に必要なことは――――


床が抜けず。


壁が壊れず。


雨風に強く。


かなりの重量にも耐えられる箱。


私のチョコレート魔法は、岩をぶつけられても壊れることがない、頑丈がんじょうなものである。


しかも変形が自由自在。


ならば、あとは家っぽい形を目指して、変形。


""をおこなっていくだけだ。


(できれば耐震性たいしんせいも備えた、横揺よこゆれに強いチョコレートを作っておきたいね)


横に揺れようが縦に揺れようが、ハンマーでぶん殴られようが、雨風あめかぜにさらされようが……


決して倒壊とうかいすることのない、柔軟性じゅうなんせいの高い住宅。


(あとは甘い匂いはないほうがいいかな?)


甘い匂いは、生物や魔物を引き付けるからね。


うん……


だいぶ良い感じなんじゃないかな?


プランがまとまってきた。


実際に作ってみよう。


「チョコレート・ハウス!」


イメージする。


大きな球体きゅうたいのチョコレートを生成する。


カカオマスだけでなくホワイトチョコレートも混ざり合った、二色にしょくのチョコレートだ。


その球体チョコを、家の形へと成形せいけいしていく。


二階建にかいだての家。


よし……イメージできた。


「ぬん!!」


次の瞬間。


山小屋・裏手のグラウンドの上に。


カカオマス・ホワイトチョコの二色の素材でできた、チョコレートの家が誕生していた。


(ふおおおおおおおおおおおおおおお!)


自分で作ったモノながら、私は感激する。


二色のチョコレートが牛柄模様うしがらもようを描きながら、家の壁面へきめん形作かたちづくっている。


すごい。


チョコレート・ハウスだ!


マジで完成だ!!


「……」


クレアベルが絶句していた。


一方、アイリスが目を輝かせる。


「うわぁ……すごーい!! おうちだぁ!」


アイリスがはしゃぎながら、チョコレート・ハウスの壁をペタペタと触り始める。


私はクレアベルに告げた。


「これなら、山小屋が修復するまで、屋根のある家で住めますね?」


「いやいや……有り得ないだろ……」


クレアベルは驚きを通り越して、ちょっと引いていた。


「お前の魔法……ほんと、なんなんだ? これはさすがに、常識外じょうしきはずれにもほどがあるぞ?」


「まあ、チョコレートに不可能はありませんからね」


「チョコレート……恐ろしい魔法だ」


とクレアベルは、しみじみと感想をこぼしていた。



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