第3章52話:全力

「おいガキ。俺のここまでの攻撃が50%だと思っているらしいが――――」


ジルが構える。


……明らかに雰囲気が変わった。


「今までは20%程度だ。うっかり殺さないように、手加減してやったんだよ!」


魔力が練り上げられる。


濃密な魔力。


「だがもう遊びはしまいだ! 正真正銘、100%のパワーで攻撃してやるよ!!」


次の瞬間。


ジルが動き出す。


かつてないスピードだ。


その初動の加速に乗せて、繰り出してきたのは前蹴り。


まるで死をまとうような、濃密な殺意を込めたキックを放ってくる。


私は、かわすこともせず。


みぞおち付近を蹴り飛ばされた。


「――――――」


えぐるように強力なキック。


私は吹っ飛ばされ、地面を転がる。


「これが、地竜を殺すことができた俺の打撃だ」


ジルが静かに告げた。


地面に倒れる私。


彼はつぶやいた。


「……死んだか」


そこに駆けてくる者がいた。


神官フィーナである。


フィーナさんは叫ぶように言った。


「こ、殺してしまったんですか!?」


「あん? まあそうだな。死んじまっただろうなァ? アレを食らって生きてるわけがねえ」


とジルが答えた。


フィーナさんがショックを受けたように息を呑む。


さらに彼女は問いただす。


「なぜ殺したんですか? 殺さないようにというのがルールだったはずです!」


するとジルが冷めたように答える。


「別にいいだろうが。どうせセレナは、負けたら死ぬんだからよ。処刑の手間が省けたろ」


「そ、それはそうかもしれませんが……」


セレナは敗北したら処刑だ。


どのみち死ぬのだから、いま死のうと、あとで死のうと大した違いはない。


ジルは告げた。


「さて、俺は帰る。死体の処理は、ネリアンヌにでも任せ―――――」


「あのー」


「!!!?」


ジルが驚愕する。


私は、むくりと起き上がった。


そして私は言った。


「まだ死んでませんが」


私は立ち上がって、服についた砂をパッ、パッと払った。


さらに歩きはじめ、ジルと対峙する位置で立ち止まる。


「馬鹿な……!? 俺の全力を食らって、起き上がってくるだと!?」


ジルが愕然がくぜんとつぶやく。


私は告げた。


「なかなか響く攻撃だと思いますが、それだけでした」


痛みやダメージはない。


まあ私は、切り刻まれても死なないぐらいなので、強打きょうだされたぐらいじゃダメージを負わない。


私は言った。


「やっぱり100%の本気も、大したことなかったですね?」


「―――――――」


ジルが絶句する。


彼は、冷や汗を浮かべ始めた。

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