第3章33話:盗賊

それから10日ほど経った、ある日。


昼。


晴れ。


私は、一人でキトレル山の森を散策していた。


散歩である。


ときどき、大自然の中でのんびり過ごしたくなる日がある。


今日は、まさにそんな気分だった。


しかし。


キトレル山には、招かれざる客が訪れていた。


森に囲まれた半径30メートルぐらいの空き地。


そこに4人の盗賊がいるのを、私は発見した。


男盗賊2人(黒髪の男が1人、赤髪の男が1人)


女盗賊2人(青髪の女が1人、紫髪の女が1人)


……である。


とりあえず私は森の茂みに隠れて、聞き耳を立てることにした。


「今回の獲物ターゲットは、この山のどこかにいる。見つけ出して、拉致する」


と、黒髪の男盗賊が言った。


どうやら誰かを探しているらしい。


拉致する……とは穏やかではないな。


私はより深く集中して、盗賊たちの声を聴き取ろうとする。


赤髪の男盗賊は言う。


「たしかターゲットは、セレナとかいう名前のガキなんすよね?」


「ああ」


と黒髪の男盗賊は肯定した。


あれ……?


いまセレナって言わなかった?


気のせいだろうか?


「でも、人さらいなんてメンドくさくないっすか? 近くの村でも襲撃したほうが、儲かるんじゃ?」


と赤髪の男盗賊が提案した。


しかし黒髪の男盗賊が否定する。


「今回の任務は、さるお方からの命令だ。拒否したり、しくじったりしたら、何をされるかわからん」


「なるほど。そうなんすね」


と赤髪の男盗賊が答える。


雰囲気的に、どうやら黒髪の男盗賊がリーダーのようだ。


盗賊たちのまとめ役のような口振りをしている。


「でも、ザカルさんがいれば楽勝っすよね」


と赤髪の男盗賊が言う。


「ザカルさんは、ふたどなりの街じゃ、名の知れた盗賊だものね」


と青髪の女盗賊が同調した。


「ふん。俺ばかりに頼るなよ。お前らにも働いてもらうぞ」


と黒髪の男盗賊が言った。


会話の内容からするに、リーダーである黒髪の男は【ザカル】という名前らしい。


もちろん私の知らない名前だが、そこそこ有名人のようだ。


(まあ、誰であろうと関係ない)


と私は思った。


キトレル山で悪さをするような連中は、放っておけない。


私は、森の茂みから姿をあらわした。


「誰だ……!?」


とザカルが警戒した声で言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る