第3章30話:街4

「お許しください、お許しください!」


と男性は必死に懇願している。


「だから許さないって言ってるでしょ」


「ぐがっ!」


男性の顔面を蹴りつけ、その髪をつかんだネリアンヌ。


剣を、男性の首筋に向けた。


まずい。


私は、思わず声を上げてしまう。


「お、お待ちくださいっ」


全員の視線が、私に集中する。


……ああ。


つい口出ししてしまった。


でも、あのままだと、男性は斬り殺されていたかもしれないもんね。


私はギャラリーの前に出る。


ネリアンヌと4メートルぐらい離れた位置で立ち止まる。


「……なに、あなた?」


とネリアンヌが睨みつけてくる。


うーむ。怖いなこの人。


私は言った。


「ちょっと、やりすぎではありませんか?」


「は?」


「ぶつかっただけなんですよね? そのへんで、許してあげてもいいのでは……」


と提言する。


ネリアンヌが、男性の髪を無造作に離す。


次の瞬間。


「!?」


ネリアンヌが、無言で、私に斬りかかってきた。


即座に間合いを詰めて、斜めに切り上げる斬撃。


(わっ!?)


私は身体をそらしてかわす。


危なかった……!


ぼうっと突っ立ってたら斬られてた。


「ふーん」


とネリアンヌがにやにや笑った。


「いまのを見切るのね。面白い。あなた、名前は?」


「……」


ネリアンヌが尋ねてくるが……


答えたくない。


でも貴族相手に答えないわけにはいかないか。


「セレナ、です」


「セレナね」


ネリアンヌが剣を収める。


私はホッとした。


ネリアンヌが言ってくる。


「用事を思い出したから、今日のところは引き上げるわ。またね、セレナちゃん?」


そう言って、彼女はきびすを返した。


護衛を引き連れて、歩き去っていく。


……行ったのか?


なんかよくわからないけど、退散してくれたらしい。


「あの、大丈夫ですか?」


と、私は蹴られていた男性に尋ねた。


「あ、ああ。助けてくれて、ありが……うぐっ!?」


男性が脇腹をおさえていた。


怪我をしているようだ。


「医者に連れていきましょうか?」


「いや、いい。自分でなんとか……あぐっ」


男性は立ち上がろうとするが、痛がって、動けない。


骨が折れているのかもしれない。


そのとき。


「俺が連れて行こう」


と、ギャラリーの一人が言った。


さっきのオッサンである。


「お嬢ちゃん、見てたぜ? なかなかカッコイイじゃねえの」


とオッサンは私に言ってきた。


それからオッサンは続ける。


「ほら、肩かせや」


「あ、ああ。すまない……」


オッサンが男性に肩を貸して、起き上がらせる。


なんだよ、オッサン……いいやつじゃないか。


オッサンと男性が二人で歩き去っていく。


(私も、クレアベルのもとに戻ろう……)


と思い、歩き出した。


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