第3章27話:街
初夏。
晴れ。
朝。
クレアベルの引率で、私とアイリスは山を下りて街にやってきていた。
私たちの生活は、山の恵みによる自給自足。
しかしそれだけでは生活必需品が揃わないことも多い。
だから定期的にこうして、街で買い物をしにきているのだ。
私は正門から続く大通りを歩きながら思う。
(相変わらず、穏やかで、良い街ですね)
山の手前にある街――――【キトレルの街】。
人口3000人ぐらいの街。
赤い屋根の家が建ち並ぶ
街にはいろんな人が歩いている。
庶民風の服を着た
衛兵。
行商人。
魔法使い。
冒険者らしき戦士、
神官。
吟遊詩人。
エルフや獣人。
……などなど。
あちこちに露店が出て、馬車も行き交っている。
穏やかな街ではあるが、活気もある。
私はこの街の雰囲気がとても好きだった。
「とりあえず、日用品を買っていこう」
とクレアベルが言い、雑貨屋や露店に立ち寄る。
パン屋に立ち寄ってパンを買ったりする。
なお、パンとはライ麦パンである。
小麦を使ったパンは高級品とされ、一般庶民は買わない。
購入した食料品は、防腐魔法をかけて、クレアベルがアイテムバッグへと収納していく。
一通り、買いたいものを買ったとき。
ふと街路の端から音楽が流れてきた。
どうやら3人組みの楽団が、演奏をはじめたようだ。
前世でいうところのストリートライブである。
構成は、
古風な弦楽器が2人、
フルートのような笛が1人……だ。
「わぁ~! すごーい!」
楽しげな演奏につられたアイリスが、演奏のほうへと走っていた。
「お、おい! アイリス!」
と、慌ててクレアベルが追いかける。
私は苦笑しながら二人の後を追った。
楽団の演奏を遠巻きに見守る。
明るい楽曲を演奏している。
ボーカルがいない器楽曲である。
――――現代音楽とは当然、いろいろな面で異なる。
たとえば現代音楽は、主旋律を邪魔しないように副旋律が存在する。
ギターがメインのメロディを担当し、ベースが縁の下を支えるようなイメージだ。
しかし……
この楽団の音楽は、副旋律が存在しない。
3人とも主旋律を演奏している。
ゆえに互いの主張がぶつかりあっていて、まとまりがない。
とはいえ……
中世ぐらいの音楽では一般的な形式だったため、なんら不思議なことはない。
それに、私はこの音楽にとても感動していた。
なぜなら、久しぶりに音楽というものに触れたからだ。
異世界では、庶民に広く音楽が普及しているわけではない。
だから音楽に飢えていたのだ。
(ああ、ヴァイオリンが弾きたい!)
と私は思った。
私はチョコレートの次に、ヴァイオリンが趣味である。
ヴァイオリン教室に7年ほど通っていたため、著名な曲はソラで弾ける。
ただ……
異世界ではヴァイオリンという楽器がない。
なので弾くことができないんだよね。
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