第2章25話:秋

と、そのときだった。


「あら、もうみんな来てたんですか」


ようやくユズナさんがやってくる。


挨拶をしてくる。


「こんにちは、みなさん」


私は、新たにチョコレートを生成して、言った。


「こんにちは。あの……忘れないうちに。ユズナさんもどうぞ」


「え、なんですかこれは?」


「お菓子です。食べてみてください」


「はぁ」


ユズナさんが受け取ったチョコを口に運ぶ。


そして驚愕した。


「な、なんですかこれ!? めちゃくちゃ美味しいですよ!!?」


私が、チョコレート魔法で作ったチョコだと説明すると。


さらにユズナさんは、驚嘆の目を向けてくるのだった。






そしてこのあと。


剣術教室で剣や魔法の訓練をおこなった。


また、アイリスとラミサさんが試合をした。


結果は、ラミサさんの勝利であった。


アイリスは悔しそうにしていたが……


まあ、これから強くなっていけばいいよね。









――――――1年が経つ。


10歳。


秋。


秋の山は、美しい色合いに変わる。


緑の木々は、多くが、黄色や赤色になり、いろとりどりの色彩を見せてくれる。


森の中には落葉おちばや枯れ葉も多くなり、山菜やキノコも増える。


獣の活動も活発となり……


ウリボウを連れた親イノシシを頻繁に見る事ができるし。


キツネやタヌキの姿もある。


穏やかな秋。


私は、この季節がとても好きだった。


気温もすごく涼しくて、心地良いしね。







ある日。


昼。


うろこ雲がたなびく、青い秋空。


山小屋近くの森、切り株のある広場。


私は、チョコレート魔法の実践訓練をしていた。


この訓練は、定期的におこなっている。


もはやチョコレート魔法は、驚くべき多彩ぶりを呈している。


たとえば。


「チョコレート・ニードル!」


と唱える。


するとチョコレートのトゲが複数あらわれ、飛んでいく。


地面から、つららのごとくトゲを生やすこともできる。


かなり使い勝手の良い攻撃手段だ。


……次に。


「チョコレート・ライズ!」


私の腰。


左右両方の腰部ようぶの、服の上からチョコレートが生えてくる。


そのチョコレートが地面にぺたっとはりつき……


びよーん、と思いきり天へ伸びた。


私はチョコレートに持ち上げられて、ぐんぐん高度をあげる。


樹木よりも高く、山を見張らせるような位置まで高度をあげる。


やがて、制止。


「良い眺めですね」


と私は思った。


地表から30メートルぐらいの位置。


そこから眺められるのは、紅葉や黄葉にみちあふれた秋の森。秋の山。


とても風情のある絶景で、晴れ渡るような情趣と感動が、私の胸に込み上げてくる。


ひとしきり景色を楽しんだあと、チョコレートを収縮させる。


地面へと戻ってきた。


「ふう……」


深呼吸を一つ。


最後に、チョコレートを生成して、ひとくち食べる。


甘味と苦味が、脳をきらきらと喜ばせてくれる。


はぁ……生き返る。


良い糖分だ。


私は、おもむろに切り株へと座る。


そして、ふと思った。


(異世界に来て、10年になるんだよね……)


異世界に来てから、10度目の秋。


日本の生活とは、何もかも違うけど……


もうすっかり異世界には慣れてしまった。


なんだかんだ、うん。


この異世界が好きだ。


自然は綺麗だし。


魔法はあるし。


クレアベルやアイリスとの生活も楽しいし。


なんだかんだ、健気に生きてる。私。

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