第2章18話:対決3

「では、はじめ!」


ユズナさんが号令をかける。


瞬間。


ヘンリックくんが、地を蹴った。


一気に接近してくる。


さきほどと同じ展開になるか……と思いきや。


「……!」


ヘンリックくんが途中で横に飛んだ。


と見せかけて、また突っ込んでくる。


ジグザグな動き。


初戦と同じではなく、さすがに変化をつけてきたか。


ヘンリックくんは頭が良い。


戦術もかなり考え抜かれている。


知力勝負に持ち込まれる前に、決めてしまおう。


(いくよ、チョコレート魔法……!)


私は、ついに、


チョコレート魔法を発動する。


「ん……ッ!?」


ヘンリックくんの進路を妨害するように。


私はチョコレートの壁――――【チョコレート・ウォール】を出現させる。


ヘンリックくんが足を止めたようだ。


壁の向こうで、ヘンリックくんがいったん後退し、距離を取る気配がした。


私はチョコレート・ウォールを解除する。


「なるほど、チョコレート魔法とは、壁を張る能力ということか」


などとヘンリックくんが分析している。


「さて、それはどうでしょうか」


と、私は不敵に告げる。


もちろんチョコレート魔法は壁だけじゃない。


私は、次なる一手を繰り出した。


左右両方の肩口から、にょきっ、とチョコレートを生やし、ぐいーんっと伸ばす。


「っ!?」


ヘンリックくんや、ギャラリーのみんなも目を見開いた。


ムチのように伸びた2本のチョコレートの先端に、人型の巨大な手が現れる。


1メートルぐらいの巨大な手のひら。


その手が、拳を握るような形になった。


「チョコレート・パンチ」


二つのパンチがヘンリックくんに襲いかかる。


「!!?」


ヘンリックくんが驚愕する。


右のパンチをなんとか避ける。


しかし左のパンチは避けられず、ヘンリックくんは正面から剣で受けた。


「うっ!!?」


パンチの衝撃は重い。


真正面から綺麗に受けたにもかかわらず、ヘンリックくんはザザザッと後退させられていく。


後退を食い止めるべく、ヘンリックくんが気合で、なんとかパンチを弾き返した。


しかし。


次なるパンチが、休まずヘンリックくんに襲いかかる。


それだけじゃない。


【チョコレート・パンチ】の手首から、新たに2つの手が、にょきっと生えてくる。


左右の手首から生えてきているので、計4つの手が増えた。


殴りかかる2つのパンチに対し、新たに増えた4つのハンドたち。


ヘンリックくんを捕まえようと掴みにかかる。


「なんだこの能力は!? くっ、この!!」


計6つのハンドたちに襲撃されるヘンリックくんは、さすがに防戦一方となった。







<他者視点>


チョコレート魔法を目にしたテオが、目を輝かせて感激した。


「すげー!! なんだあの能力!?」


「ヘンリックが押されてるわよ!?」


と、ラミサも同調する。


みんなが驚いているのをみて、アイリスは満足げだった。


ユズナも驚いていた。


「チョコレート魔法、でしたか。ずいぶんと風変わりな能力ですね」


それに、セレナの魔法操作能力に瞠目どうもくさせられる。


魔法を細かく操作するのは簡単ではない。


セレナは、文字通り魔法を、自分の身体から生えた手や腕のごとく扱っているが……


あそこまで自由自在に魔力をコントロールするとなると、相当の実力が必要だ。


「一見すると、土魔法のようにも見えますが」


とユズナは分析を口にした。


「土魔法ではないな」


クレアベルはそう否定する。


続けて、クレアベルは告げた。


「あれはいわゆる【固有魔法こゆうまほう】だろう」


「固有魔法……」


魔法とは通常、誰でも使えるものだが……


稀に、個人しか使用することができない魔法が発現する。


それが固有魔法だ。


チョコレート魔法は、おそらく固有魔法に該当する代物。


「まあ、私もセレナのような固有魔法は初めて見たがな」


とクレアベルは言った。


セレナと一緒に暮らしてきたクレアベルは、チョコレート魔法のさまざまな一面を目にしている。


形状は変幻自在。


斬撃性を持たせたり、液体化させたり、硬化させたり……性質の変化も自由自在。


しかも食べれば美味しいという謎めいた仕様。


セレナのチョコレート魔法は、とらえどころがなく、まさしくビックリ箱のようなものである。


「固有魔法は奇怪な魔法が多い。まあセレナを神殿に連れて行けば、何かわかることもあるかもしれんが」


神殿では魔法の鑑定をおこなうことができる。


しかし、とユズナは告げる。


「最近の神殿はキナ臭いところもありますから……やめておいたほうがいいのではありませんか? 目をつけられたら、何をされるかわかりませんよ」


「……そうだな」


とクレアベルは同意した。





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