第1章2話:山小屋

私を保護してくれた女剣士は、クレアベルという名前らしい。


クレアベルは、どうやら旅の途中のようだった。


私を連れて、馬車に乗り……


森を越え、


山を越え、


草原を越え


峠を越え……


宿での宿泊、あるいは野宿を繰り返し……


やがて彼女の実家とおぼしき山小屋やまごやへと到着した。


一階建ての小さな家である。


「―――――。――――――、―――――(ここが私の家だ。狭いかもしれないが、住み心地は悪くないぞ)」


山小屋の右側には井戸と畑がある。


山小屋の左側には果実のなった樹木。


そして山小屋の裏には半径50メートルぐらいの巨大なグラウンドがあった。


山小屋の周囲は森と山に囲まれている。






クレアベルが玄関扉に手をかける。


玄関を開けたら、いきなりリビングだ。


リビングの右の壁には個室に続く扉が2つ。


リビングの左の壁にはトイレに続く扉が1つ。


リビングの正面の壁には窓が二つと、扉があり、その扉を開ければ、山小屋の裏に出られるようになっている。


リビングの内装としては、四人がけの木製のテーブルがある。


テーブルには四つの椅子が配置されていた。


暖炉はないが、部屋のすみには薪などの資材が置かれている。


あとキッチンもリビングの中にあり、フライパンや包丁などが揃っていた。




リビングには、いろいろな匂いがした。


木の匂い。石の匂い。


使い古された家具や、キッチンの匂い。


あたたかく、陽気な春の匂い。


どれもこれも、優しい匂いであった。





さて、個室について。


先述の通り、個室は2つあるが、どちらも寝室のようだ。


しかし使われているのは一つだけである。


大した内装ではなく、ベッドとサイドテーブルがあるだけだ。


「―――、―――――――(そうだ。お前の名前を決めてやらないとな)」


寝室のベッドに私を寝かせたクレアベルは、そう言った。


「――――、セレナ(お前は、セレナだ)」


どうしてだろうか。


言葉はわからないのに……


それが、私の新しい名前であると、理解できた。


「―――――、セレナ(よろしくな、セレナ)」


私の名前は、セレナ。


苗字はない。


ただのセレナである。


うん、悪くないかも。


セレナというのがどういう意味なのかは知らない。意味などないかもしれない。


しかし、私はこの名前が、無性に気に入った。







春が過ぎて……


夏が来た。


山小屋で、クレアベルと二人暮らしの生活。


クレアベルと私は、本当の親子ではないが……


今のところクレアベルは、私のことをとても大事に育ててくれている。





で。


山小屋で暮らしはじめてから、私がしていたことといえば。


チートスキルとおぼしき【チョコレート魔法】の操作ぐらいだった。


――――私は暇を見つけては、【チョコレート魔法】の練習をした。


練習の中で、わかったことがいくつかある。


まず、魔法は進化するということだ。


魔法というのは使えば使うほど、成長する。


まるでレベルアップするかのように。


進化すれば、より巧みな操作が可能になる。


たとえば私の【チョコレート魔法】で出したチョコレートを、


変形して、花の形にするだとか……


ツルのような形にしたうえで、遠くにある食べ物を掴んで取ってくるとか……


チョコレートで作ったボールで遊ぶとか……


いろんな使い方が可能である。







他に魔法についてわかったことといえば。


己の魔法は、使うほどに理解が深まるということ。


たとえば、私は【チョコレート魔法】で出したチョコレートが、魔力で出来た塊である……ということを知っている。


だから人が食べても大丈夫だということも、わかっている。


このことは誰に教わったわけではない。


なんとなくそうだ、とわかるのだ。


おかげで、チョコレート魔法への理解は、スムーズに進んだ。






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