チョコレート・ガール――異世界に転生すると、私のチートスキルはチョコレート魔法でした!チョコを食べたり、チョコレートの武器で戦ったりしながら、異世界をまったりと生きていきます――

てるゆーぬ@キャンピングカー2巻発売中!

第1章:チョコレート魔法

第1章1話:転生

私は如月弓美(きさらぎゆみ)。


21歳。


高卒。


チョコレートの製造業ではたらく社会人。


ある日、仕事が終わり……


帰り道のスイーツ店でチョコレートを買って歩いていた。


夜の横断歩道を歩いていると、トラックが信号を無視して突っ込んできた。


私はトラックにはねられ、痛みを感じる間もなく、死んだ。





……。


………。




そして気づいたら、見知らぬ世界にいた。


土の匂い。


草木の匂い。


お日様の匂い。


……森の中である。


私はどうやら、小さなカゴの中に入れられているようだ。


どういう状況なのか?


すぐに理解する。


私は、親に捨てられたのだ。


……親の顔は覚えていない。


けれど、母親らしき人に抱えられて、この森に捨て置かれた記憶だけは覚えている。


(これって、まさか異世界転生……!?)


と、私は推測する。


間違いない。


私はトラックにひかれて、死んで……


新しい世界に転生したのだ。


しかも、生まれたばかりの赤ん坊に。


0歳児。


ろくに発声すらできない。


声をあげようとしても、


「あー、あー、うー」みたいな、うめき声のようなものしか出せないし。


というか。


こんな森で放置とか、ヤバくない?


(これが異世界転生だとしたら、魔物とか出るんじゃ……?)


ここで魔物に見つかったら一貫の終わりだ。


魔物じゃなくても、獣などに見つかったら死ねる。


抵抗する力はない。


食い殺されて終わるだろう。


あるいは、誰にも見つからず餓死する可能性もある。


あれ? 思ったより危険な状況やん?


誰か助けてー!!


割と切実な思いで、声をあげた。


「ぎゃあ、おぎゃあああ!」


赤ん坊だって本気を出せば、泣き叫ぶぐらいはできるんだ。


ありったけの声で叫ぶ。


誰か気づいて!!


「グルルゥ……!」


と、声がした。


視線をやると、魔物だった。


ウルフ的な見た目をしている。


お前を呼んだんじゃねー!


人間を呼んだのよ!


なんで魔物が来るの!?


ちょ、ちょっと、これはまずいんじゃないの?


ガチで死ぬよ!?


私、赤ん坊だし! 戦えないし!


こうなったら。


(ふおおおおお! 目覚めろ! チートスキル的なやつ!)


と、念じた。


すると私の手の先から……


なにやらチョコレートのような、こげ茶色をした液体が現れて、宙に浮かんだ。


でかしたぞ、私!


チートスキルだ!


でも、この液体はなんだ?


チョコレート色をしている。


チョコレート色……


いや、チョコレートやん?


この甘い匂い。


カカオの匂い。


間違えるわけがない。


私の大好物、チョコレート。


どれくらい好物かというと……


あまりに好きすぎて、前世ではチョコレートを製造する企業で働いていたぐらい。


そんな私だから、匂いでわかる。


目の前に浮かんだ液体は、まさに液状化したチョコレート。


……え?


私のチートスキル、【チョコレート魔法】ってこと?


これでどうしろと?


「ガウウゥッ!!」


ウルフが地を蹴って、飛びかかってきた。


わー!


しぬしぬしぬ!!


あ。


終わったわ。これ……


ウルフの爪が、日の光にきらめいている。


あれが振りかざされたら終わりだな。


……と。


半分あきらめの気持ちがよぎった、次の瞬間。


「!!?」


横の茂みから、人影が飛び出してきた。


その人物は、空中に跳躍するウルフの横腹に蹴りを叩きこむ。


横から蹴り飛ばされたウルフは、もんどり打ちながら、樹木に激突した。


なんてキック力だ……。


起き上がったウルフは、恐れをなしたのか、慌てて逃げていく。


私は、助けてくれた人物を見上げる。


女性だった。


赤髪ポニーテール。


美しく燃える宝石のような黄色の瞳。


身長は170cmぐらいか。


旅人っぽい服装をしていた。


腰に剣を携えているところから察するに、剣士のようだ。


「――、―――――(ふう。助けられてよかった)」


と、女性は言った。


うーん、だめだ。


言葉がわからん。


「――――、――――――――……。――――?(しかし、なんでこんなところに赤ん坊が……。捨て子か?)」


何を話しているかはわからない。


しばし女性はぶつぶつと言ったあと、私のことを抱きかかえた。


「―――――。――――――――? ―――――――(かわいそうに。こんな場所で一人は心細いだろう? 私の家に連れていってやる)」


また何事かを言ってから、女性は、私を抱えたまま歩き出す。





こうして私は、通りすがりの女剣士に保護された。


ここから、私の異世界生活が始まりを迎えるのだった。





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