【ホラーショートストーリー】幽玄の屋敷と永遠の夜想曲

藍埜佑(あいのたすく)

第一章:薄暗い屋敷の秘密

 19世紀中頃のイギリス。

 霧深い田園地帯に佇む屋敷は、一見して何十年もの歴史を刻んだ風格がありながらも、長い間手入れされていないことが外観からも明らかだった。

 その屋敷は、若き貴族アルバートが遠縁の老伯爵から突然相続することになったもので、噂によれば、そこは幽霊が出るとされていた。

 アルバートは、その古びた屋敷に足を踏み入れた瞬間から、新たな人生の幕開けを感じ取っていた。

 彼には、この古い屋敷を改築し、新しい活気を吹き込む構想が既に頭の中に描かれていたのだ。

 床は軋み、壁は所々剥がれ落ち、薄暗い廊下には無数の蜘蛛の巣が広がっていたが、彼はそれらを恐れることなく、むしろ興奮さえ覚えていた。

 屋敷の中で彼を出迎えたのは、伯爵家に長く仕える老メイド、エリザだった。

エリザは、その年齢に見合わぬ機敏さでアルバートを迎え入れ、屋敷のあちこちを案内した。

「この屋敷にはどれほどの歴史があるのだい、エリザ?」

「数えきれないほどの年月が流れましたわ、アルバート様。伯爵家は代々この地に根を下ろしておりましたから」

 彼女の話によると、屋敷には伯爵の多くの思い出が詰まっており、それぞれの角には物語があるという。

 しかし、アルバートの注意を引いたのは、屋敷の奥深くにある一室の扉だった。

 その扉は他のどの扉よりも重厚で、複雑な錠前がかかっている。

「エリザ、この扉は? なぜこんなにも厳重な錠前がかかっているんだい?」

「ああ、その部屋は……。長い間、開けられていない部屋ですわ。鍵はどこかへ行ってしまったようで、私には分かりません。アルバート様も気になさらない方がよろしいかと」

 エリザはその鍵を持っておらず、その部屋には近づかない方が良いと忠告した。

 そう言われたアルバートの心の中では、その部屋に対する好奇心が当然のように募るばかりだった。


 夜になると、屋敷はさらにその神秘性を増した。

 アルバートが自室で夜の静けさを楽しんでいると、どこからともなく微かな音楽が聞こえてきた。

 音楽は、まるで悲しみを帯びたヴァイオリンの旋律で、彼の心を揺さぶるものだった。音楽の源を求めて屋敷を歩き回るアルバートだったが、その音は常に遠ざかるばかりで、決してその正体を現すことはなかった。

 日々は過ぎ、アルバートはその謎の音楽が、かぎりなく閉ざされたあの部屋から発せられていると確信するようになる。

 エリザの忠告を無視し、彼はその部屋を開くことに決意する。

 地元の鍛冶屋を訪ね、錠前を開けるための手伝いを依頼した。

 アルバートには、その部屋が屋敷の秘密を解き明かす鍵であると感じられたのだ。

 アルバートは、その部屋に隠された秘密を明かすべく、エリザが眠りについた深夜を選んで、錠前を開ける準備を整えた。

 そして、扉が開くその瞬間を、彼は息を呑んで待った。

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