第1話 定期演奏会の楽譜
4月。
真紀は中学校3年生。吹奏楽部に所属している。
後輩に慕われる真由は顧問の推薦もあり部長に就任した。
由紀は、クラリネットパートで小学校から吹奏楽部で活動していたこともあり、真紀の信頼を得ている。
由紀は、真紀の勝気な性格とは真逆で、とても穏やかで、パートの雰囲気を和やかにしてくれる貴重な後輩だ。由紀は、身体が弱く腎臓病持ちで、体調悪くなると入院することもあった。吹奏楽部は、真紀が1年生の時と比べ忙しい部活になっていた。
昨年の10月末のコンクール、吹奏楽部は、顧問の先生の指導もあり、はじめて全国大会出場を果たした。
10月のコンクール後、由紀は持病の腎臓病が悪化し、少し入院することになった。
部活の合間、真紀は入院中の由紀のところへ、見舞いへいった。
今日は、12月の定期演奏会で吹く楽譜をもって病院へむかった。
由紀のところへお見舞いへ行くと、ちょうど看護婦さんが点滴をかえているところだった。
看護婦さんへ一礼して、由紀のそばへいく。
「由紀ちゃん、体調大丈夫?」
「うん、ありがとう。今はだいぶ調子がよくなったよ。」
「そう。全国大会の時、体調悪そうだったから、練習がこたえたのかと心配していたよ」
「私、体力があるほうじゃないから。先輩あの時は迷惑をかけてごめんなさい。」
病室の窓から、雪がちらついている。
「気にしないでね。あっ、かわりはいるという意味ではないよ。
私は、部活がもう少し楽しくやれる雰囲気だったらいいのになと思ってね。」
「でも、全国大会まで行けるって特別ですよね。」
「うん。でも・・」
真紀は、由紀へどうこたえていいかわからなかった。
病室の椅子においた楽譜に気づいた由紀は、楽譜に手をとる。
「今年の定期演奏会は宝島をやるんですね!Saxの千春先輩うまいから、かっこいいソロになるだろうな、楽しみですね!」
「うん、由紀ちゃんも出るんだよ!」
「…」
「全国大会記念演奏会に由紀ちゃんいないのは嫌だよ」
「うん。1曲でも参加できたらいいけど・・」
「その1曲は宝島ね。この楽譜は由紀ちゃんのだよ。」
「ええーハードですよ!」
「自分がいったんじゃない!?」
「もうっ!先生の許しが出たら、宝島だけでも練習しておきますよ!」
あはは。病室に明るい雰囲気でいっぱいになった。
病室の窓のつららが、西日で光輝いている。
「また来るね、由紀ちゃん。お大事にね」
「先輩ありがとうございます。練習頑張ってください。」
真紀は、由紀の腎臓病が悪化しないことを心から願った。
腎臓病の悪化は心臓病を招きかねないからだ。
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