③ NTR現場 ※性描写あり(修正済)

 Side-梨々花


「潮吹くってどんな感じ?」


 ホテルのベッド。

 びしょ濡れになったシーツの上に、大判のバスタオルを敷いて、仰向けでタバコをふかす伊藤さんの質問に、しばし巧い表現を探す。


「う~ん。常識とか、羞恥とか、そういう事から一気に解放される感じかな?」


 伊藤さんはニヤリと笑って、仰向けだった体を翻して私の横にぴったりと体を付けた。


「解放、されたんだ?」


「されたー!」


 むき出しの肩に頬を乗せた。


「奥さんとも、あんなに激しいセックスするの?」


「いや、嫁は癌なんだ。もう1年レスだよ」


「癌だとセックスできないの?」


「子宮の癌だから、痛がるんだよね。萎えるよ、実際」


「へぇ、そうなんだ。子宮の癌だけはなりたくないな」


「君は、痛みまで楽しみそうだな」


「私が病気になっても、抱いてくれる?」


 その質問に、彼は熱いキスで応えた。




 RRRRRR……


 RRRRRRRRRR……



 電話のベルで目を覚ましたのは、それからどれぐらい経った頃だろうか?


 2時間の休憩タイムはあっという間に過ぎて、慌てて服を着て部屋を出た。


 駐車場に降りると、一気に現実の色が増す。


「はぁ~、やだな。帰りたくない」


「もう1時だ。家の近くまで送るよ。俺は明日も5時起きだ」


 助手席に乗り込むと、もう終了ムード。


 伊藤さんの意識は、明日という現実に向かっていて面白しろくない。


「奥さんの所に帰っちゃうんだね」


「お前だって、旦那の所に帰るだろ」


「別にいいもん、帰らなくたって」


 嘘。


 私のアイデンティティとか自尊心ってやつを支えているのは大牙君だ。

 25才、元モデル。社長夫人。

 その肩書がどれだけ私に快感を与えてくれるか。


 けどね。


 それだじゃイケないの。


 メスとしての私を満足させてくれるのはやっぱり伊藤さん。



「いい生誕祭が出来た?」


 ハンドルを片手で操作しながら彼がそんな事を訊く。


「まぁまぁかな」


「まぁまぁってなんだよ。俺の精力吸い尽くしておいて」


「まだ足りなーい。全然足りなーーーい」


 キュキュっとかかったブレーキに一瞬前のめりになった。


 外に目をやると、自宅マンションの前だった。


「ここで、ヤる?」


 伊藤さんは、助手席に座る私の上に覆いかぶさると、カチっとシートベルトを外した。


 ここは閑静な住宅街。

 この時間は徒歩での人通りは殆どない。

 街全体が眠りについている。


 短いスカートの裾からむき出しになっている太ももを、彼のかさついた指先が下から上へと撫で上げる。


 敏感な部分まであと一ミリ。

 そんな場所で焦らすから、私は思わず彼の首に両腕を巻き付けた。

 首筋に吸い付いて、赤い印を付ける寸でで思いとどまる。


 バレたらお仕舞。


 もう会えなくなるから。


 満たされない唇で、彼の唇を覆った。


 彼の手が下着に伸びるから、腰を浮かせた。


「4回目、行く?」


 彼の唇が耳元でそう囁いた。


 その唇に舌を差し込んで、曖昧に返事をする。


 その時だった。


 ドンっ!!!


 と車に衝撃。


 車内が明るく照らされた。


「た……た、大牙、君……」


ドン! ドン!! ドンッ!!!


 目を血走らせた、夫が立っていて、BMWのドアを蹴り飛ばしていた。

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