夕凪、二人。

望月しろ

夕凪、二人。




「綺麗だね……」

「うん」



 黄金色の夕日を中心に、オレンジの線がいくつも放射状に伸びている。手前になるにつれ黄金に白っぽさが増し、空を淡いグラデーションに染める。



───ザーッ……

───ザーッ……


 規則正しく打ち寄せる波音。

 ゆったりしていて、心地良い。



 ふわりと彼女の長い髪が風になびいたのと同時に、潮の香りがツンと鼻先に届く。




「身体……大丈夫?」

「うん。ありがとう。大丈夫」


 繋いだ手に、クッと力を込めた。

 また痩せたような気がする。

 日に日に薄くなっていく手───骨張った感触に、胸がチクリと痛む。



「今夜……食べたいもんある?」

「ん~……、どうしようかな……」


 その反応からやっぱり食欲がないのだと窺える。

 無理に食べさせたくはないけど……食べてもらわないと……と葛藤が渦巻く。


 こんな状態が、もう半年以上。



 あと何日……?

 辛そうな彼女を見るのは、俺ももう限界だ。



───サーッ……

───サーッ……


 黄金色が少しずつ海へと吸い込まれていく。

 ますます凪いできた海は、鉛色に姿を変える。


 残り僅かな二人の時間を惜しむように……

 並んでぼんやりと、風景に身を委ねた。



「……そろそろ行こっか」

「……うん」



 一歩、また一歩、歩くたびに形を変える足元の砂。


 繋いでいた手を離して、そっと彼女の腰に添えた。



「また来ようね」

「うん」



 次はきっと……三人で。



 車に乗り込む彼女の下腹部を……

 大きなブランケットで、ふんわり覆った────


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夕凪、二人。 望月しろ @shiro_mochizuki

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