第37話 海水浴に来ました

 

 私達の動画投稿のお仕事は、元々は聖獣交流クラブの広報の一環です。なのでお仕事を受ける以上、本元のクラブにも入った方がいいのではないかとポーさんに訊ねたところ、「どちらでも構いません」とのお返事を頂きました。

 それでどうしようか迷ったのですが、しらたまさんとちまきさんに聖獣さんのお友達がもっと増えたら良いと思って、全員で入会する事にしました。

 そして先日、初めてクラブの交流会に参加してみました。

 色んな種類の聖獣さん達が賑やかに広場で遊んでいる中に混ぜてもらい、しらたまさん達は勿論、私もモリエルさんもとても楽しく遊びました。

 そしてそこで、交流会に参加した方から、海水浴場のお話を聞きました。

 この天界は空中に浮かぶいくつもの大陸や島で構成されている世界なので、通常の空間には海は存在しません。ですが、魚介類の養殖や観光や海水浴といった目的の為に、限定的な空間に、海を模している場所がいくつかあるのだそうです。

 その話を聞いて、私は興味を持ちました。


「まだ観光や遊びで出掛けた事がありませんでしたし、海水浴に行ってみましょうか」

 交流会が終わって数日後、私は同居家族の皆さんにそう提案しました。

 普段の仕事場が山なので、山でのハイキングはいつもしているようなものですが、海は私以外は未体験ですよね。

 私も日本にいた頃には何度か行った事がありますが、こちらの世界の海はまだ未体験です。たまには家族揃って遊びに行くのも良いですよね。

「はいでしゅ!」

「わふー!」『行くー!』

「にゃふん」『遊ぶー』

 


 ……そんな訳で、転移陣を通って海水浴場にやってきました。

 聖樹都市周辺の常春の気温とは違って、カラッとした暑さがあります。そして空が一段と青く、遠くに見える気がします。

 海水浴をしている人の数はそれなりにいますが、日本の東京近郊の海水浴場みたいに激しい混み具合ではありません。今日が平日であるのも理由の一つでしょうが、そもそもこちらでは、来たければ年中いつでも海水浴に来れるという違いもあるでしょうね。

「海で遊びやすいように、気温が高いのですね」

「汗を掻いちゃいましゅ」

 急激な温度の変化にうっすらと滲んだ汗を拭いながら、海の家へ移動します。

「わおん!」『変な匂い!』

「にゃ~おん~」『なんか、ベタベタする~』

 しらたまさんは潮の匂いに興奮して楽しそうですが、ちまきさんは毛皮がベタベタするのが嫌そうです。お二人で正反対の表情になっていますね。

「そういえば、猫さんって水に濡れるのが嫌いな子もいるのですよね……。ちまきさんはお風呂が平気でしたので、海も大丈夫かと思ったのですが、海水はダメそうですか?」

「……うにゃ、うにゃう」『あんま、好きじゃないかも』

 前脚で顔をくしくしと洗いながら、ちまきさんが困惑した鳴き声を上げました。折角の海水浴ですが、ちまきさんの好みではなかったようです。


「にゃ、にゃにゃん」『でも、お日様はいい感じ』

 私達に気を遣って下さったのかもしれませんが、ちまきさんも今すぐ帰りたいという程ではなさそうです。

「それなら、パラソルの下でゆっくりしててくだしゃい」

「美味しい食べ物と冷たい飲み物を買ってきますね」

 モリエルさんと私は、ちまきさんが海に入らなくても少しでも楽しめるよう、周囲の環境を整える事にしました。

 ベタつくのが嫌なのに無理に海に入れても、嫌な思い出になるだけですからね。海の家で用具一式をレンタルし、浜辺にパラソルを立ててシートを敷いて、居心地の良い空間を作っていきます。

「うにゃうん、にゃー」『そうする。食べるの、楽しみ』

「わふん!?」『海で遊ばないの!?』

 しらたまさんはちまきさんが遊ぶ気を失くしたと知って、愕然としています。一緒に遊びたかったのでしょう。耳がうな垂れて、見るからにしゅんとしています。

 それでも、無理にちまきさんを海に誘ったりはしませんでした。ただ、ちまきさんと海を交互に見て、これからどうしようか迷っているようです。


「しらたましゃん、僕と一緒にあしょぶでしゅ」

 ハイテンションから一転して落ち込んだしらたまさんを元気づけようと、モリエルさんがしらたまさんを海に誘いました。

「わうん!」『うん。遊ぼ!』

「にゃーお」『行ってら』

 しらたまさんは楽しみにしすぎて待ちきれなかったらしく、物凄い勢いで海に突撃していきました。モリエルさんは急いでレンタルした水着に着替えて、しっかりと準備運動を終えてから、しらたまさんの後を追いかけていきます。

「では、準備が終わったので、私も泳いできますね」

「にゃうー」『行ってらー』

 パラソルの下で転がるちまきさんに食べ物と冷たい飲み物を用意してから、海の家の更衣室でレンタルの水着に着替えて、準備運動をしてから、浮き輪を手に海に入ります。

 ここの海は、日本の海より澄んでいて綺麗ですね。すぐそこにサンゴ礁があり、色鮮やかな魚がひらひらと泳いでいるのが見えます。

(こんな素敵な海で泳げるなんて、夢みたいですね)

 海が合わなかったちまきさんには申し訳ないですが、今日は思い切り海水浴を堪能する事にします。

 そして次回の遊びは海ではなく、また別の場所を探す事にしましょう。ちまきさんも一緒に楽しんで遊べるところがあるといいのですが。



 ちなみに機材を持ってきていたので、海水浴の動画も少しだけ撮りました。

 水着姿の自分を撮るのは少し恥ずかしかったので、今回は私が撮影係になってカメラを回し、しらたまさんを中心に、モリエルさんと遊んでいる姿や、パラソルの下で転がっているちまきさんを少々撮りました。

 ですが、今日はお仕事よりも遊び優先ですので、撮影も早々に切り上げて、私も思いっきり遊んで回りました。

 綺麗な海を泳いで、浮き輪でぷかぷか浮かんで、砂浜でビーチバレーをやって。定番のスイカ割りにも挑戦しましたよ。

 初めての海にしらたまさんは興奮し通しで、遊びすぎて疲れたのか、途中で急にパタンと昼寝したりもしました。

 ちまきさんも好奇心に負けて、一度だけ海に入ってはみたものの、やっぱり長い毛が海水でベタつくのが嫌だったようです。すぐに真水(ぬるま湯)のシャワーで丁寧に体を洗い流しました。

 それでも、海の家で買ってきたかき氷や焼きそばは美味しく食べていましたし、ちまきさんもある程度は楽しめたようでホッとしました。

 偶にはこんなふうに、存分に遊ぶだけの休日も良いですね。

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