第35話 撮影部屋を作ります
動画投稿の件を前向きに捉えてみようと、私は考えを改めました。その後話し合いを重ね、ハンプタン様の要請を受けると決まりました。
そして本日は、ハンプタン様の天使であるポーさん立ち合いの元で、自宅に撮影用の部屋を増築する予定です。
部屋を拡張する為のポイントは、お仕事に使う部屋だからという理由で、有難くもハンプタン様が負担して下さる事になっています。その為にポーさんが部屋の拡張に立ち会って下さっているのです。
「お部屋はこれで問題ないですか」
ポイントを支払って下さったポーさんにそう訊ねられ、私は恐縮して頭を下げます。
「はい、問題ありません。広いお部屋にして頂いて有難うございます」
目の前に広がるのは、出来立てほやほやでまだ何も置いていない一室です。
自宅の機能を使って、リビングの隣に十二畳程の大きさの広々とした板張りの部屋を増築しました。
(後でカーペットやキャットタワーなどをリビングから移動して、お部屋を整えましょう)
「にゃにゃにゃ」『お部屋、広い』
「わふわっふー」『思いっ切り走れるー』
できたばかりの部屋の床を、ちまきさんとしらたまさんが大喜びで駆け回ります。
私とモリエルさんはポーさんをリビングに招いて、お茶とお菓子をお出しします。
「それで、先日メールで頂いていた質問の件ですが」
お茶を飲んで一息ついた後、徐にポーさんがそう切り出しました。
「はい」
実は、仕事を受けると決めた後、私達の動画を都市内に住む方向けだけでなく、野生の聖獣さん向けにも発信できないかと、ポーさんにメールで相談していたのです。
私達の動画にどれだけ影響があるかはわかりませんが、動画で積極的に呼びかける事で少しでも戦力不足解消に繋がれば嬉しいですので。
「野生の聖獣向けに動画を発信する件について、主からの回答をお届けします」
ポーさんが伏し目がちに、淡々とした口調で続けます。
彼女はどうやら、感情があまり表に出ない方のようです。ですが訊ねた事には丁寧に対応して下さいます。控えめに気遣われているのがわかります。
「まず、野生の聖獣はタブレットなどの情報媒体を個別に所持していないので、情報を得るまでに時差があります」
そう言われて、私も納得しました。
「なるほど。そういえば聖獣さんは、タブレットを持っていないですよね」
しらたまさん達も私達と暮らし始めてから、様々な機能がついた首輪をするようになったのです。動物姿ではタブレットは持ち運びし辛いでしょう。
「上層部は野生の聖獣に向けて情報を発信する際、各地の石板を利用しています。野生の聖獣は生活で得たポイントをスキル取得やステータス強化に使う際に、身近に設置してある石板へ出向きます。それにお知らせ機能も付属しているのです。……軍も以前、その機能を使って、人材募集のお知らせを出した事があるそうです」
ポーさんが質問の答えを教えて下さいました。
「では、既に野生の聖獣さんにも戦力募集をした後なのですね」
私が思いつく程度の取り組みは上層部も当然考えついており、既に実行済みだったようです。
「ですが、動画による人材募集はこれまで行われていません。戦士不足は上層部でも問題視されています。貴方方の動画によって、聖獣が少しでも戦力となる可能性があるなら、上層部はその取り組みを歓迎するでしょう」
ポーさんは彼女なりに励まして下さっているようで、私の思いつきを否定せず、柔らかく後押しして下さいます。
「ご主人しゃま、まじゅは、やってみるのが良いと思いましゅ」
モリエルさんも笑顔で後押ししてくれます。
「そうですね。まずは動画を撮影して、実際に投稿してみなければ、反応もわかりませんよね」
私はお二人の思いやりに頷いて、改めてやる気を漲らせます。
聖獣さん達から反応があるのかどうかなんて、やってみてから心配しても遅くはないのです。反応がないかもしれないと恐れて何もしないでいるよりは、やってみて爆死した方がよほどマシでしょう。
モリエルさんの言う通り、まずは動画撮影を実際に始めてみなければ。……後はそれから、ですよね。
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