裏世界に迷い込んだら、最強魔道士に拾われて勝手に弟子にされた件

乙十十(おっとっと)

第1話 落ちて生まれて

 10月下旬、少し肌寒くなってきたある夕暮れ時おうまがどき


 夏休み明けから引きこもりになってしまった高校生、アオイは気分転換に家の近くのコンビニへと足を運ぶ。


「うぅ……さむっ……。上着くらい持ってくれば良かった……。」


 身震いしながら足早にコンビニへと向かう道をいつも通り進んでいると、ふと不思議な感覚に包まれる。


 ――何か変な感じがするな……いや、気のせいか……。


 そう思いコンビニに向かう角を曲がると、何故かが無くなる。

 いや……地面はある。なのに、ゲームのバグのようにすり抜けてしまう。


「え!?ちょっと!?なに!?どういうこと!?」


 ジェットコースターのような急降下の浮遊感に思わず目を瞑る。

 着地の衝撃で倒れ込んでしまったが、幸いにも怪我や痛みも無く起き上がるアオイ……。


「いったぁ……くはないか……。いや、それよりも今の何だったんだ!?」


 先ほどの不思議な感覚も相まって、不安と恐怖が襲いかかり振り返るとそこは……。

 見知らぬ、見知らぬ……そして、見知らぬだった。

 驚きのあまり身動きが取れずにいると、通りかがったガタイの良い顎髭をたくわえた強面の男が声をかけてきた。


「おい、お前こんな路地裏で何してんだ?ゴミ漁りか?」


「え?いや……僕はコンビニに……。」


「コンビニ?なんだそれ、新種のモンスターの名前か?」


「も、モンスター?いや、それより……ここはどこですか?」


 小馬鹿にするような言い方をする男に少しムカつきつつも、尋ねるアオイ。


「どこってお前……大魔法都市『ヴァルコイネン』だよ。何だお前、異国民か?」


「ヴァ、ヴァルコイネン……?」


 どうやら知らない国に来てしまったと焦るアオイにまた声をかける人物が。


「おや?これは……落ちてきた人かな?」


 声をかけてきたのは所謂ハロウィンの時に飾るジャック・オ・ランタンのようなカボチャを被った男だった。


「お、ガーデンさん!こんな裏路地に来るなんて久しぶりだな。」


「たまたまだよ。何やら面白い事が起こりそうな気がしてね。」


 ――なんだ、このカボチャ頭のへんてこな奴は……。

 知らない世界で見たことのあるカボチャに思わず気が緩んでいく。


「キミ……持ってるね……。」


 ――え?財布以外は何も持っていないが、もしかして金目当てか!?

 ポケットを漁ると財布が入っていたため、思わず隠そうとするアオイに畳み掛けるように話すカボチャ。


「キミ、困ってるんじゃないかい?良かったらうちのギルド『ザイデルバスト』に来ないかい?」


 カツアゲされると思っていたアオイは、思いがけない提案に呆気を取られるも藁にも縋る気持ちで答える。


「あ……お、お願いします……。」


 怯えるように答えるアオイを見て被っているカボチャの奥で微笑む。


「よし、じゃあ決まりだね。さぁ付いておいで。ここは少し危ないから離れないようにね。」


「は、はい!」


「ガーデンさん!うちの店にもまた遊びに来てくれよ!」


「はいはい、今度うちの子達連れて行くからね。」


 強面の髭面男に丁寧にお辞儀をしてから、見知らぬ世界に不安はあるが『まずはこの男を信じてみるしか無い』という決意の下、

 ガーデンと呼ばれるカボチャ男から離れないように歩みを進めていく。


 裏路地から体感10分くらい歩くと、この街の大通りのような所へと出る。


「ここがこの都市のメインストリートだね。あそこのお店のシチューが美味しいから今度連れて行ってあげるね。」


 アオイが不安にならないよう定期的に話しかけ、歩きながら街を案内してくれるガーデン。

 

 ――きっとこの人は悪い人じゃない。いや……でもカボチャ被ってるしな……。

 疑心暗鬼になりつつも会話を続けながら歩いていく二人。

 すると、目の前に大きな教会のような建物が現れ、それを指差すガーデン。


「これが魔道士ギルド『ザイデルバスト』。キミがこれから世話になる場所だよ。」


「こ、ここがギルド……。え?というか、僕ここで働くんですか?」


 勿論、タダで住まわせてもらうつもりは無かったが唐突に言われ驚いてしまう。


「まぁ働くと言ったらそうだけど、きっとキミが思ってるような事じゃないと思うよ。」


 不安そうな顔をしているアオイに優しく話しかける。


「魔道士ギルドだからね。この街の皆や他の国で困っている事をこなして行ってお金を貰うんだよ。」


「いや……そもそも魔道士っていうのが分からないです……。」


「そりゃそうだよね!今さっき落ちてきて、この世界の事なんて何も知らないもんね。」


 ――それを分かってるなら説明してくれよ……。

 心の中でそう思ったが、ここで変に神経を逆撫でしてほっぽりだされたら困るためグッと堪える。


「まず、魔道士っていうのは……。」


 ガーデンが話しかけるとギルドの2階のベランダから大きな声を上げる人物が。


「あー!!!ガーデンさん!!!帰ってきたら俺の所に来てって言ったじゃん!!!」


 そう言うと、2階から飛び降りるが着地する寸前にフワっと浮くように着地する。


「ガーデンさん!?俺に言いましたよね!?帰ったらマスターとしての仕事するって!?」


「いや……リオン……。これもまぁマスターの仕事というか……。」

 

 ――こんなふざけたカボチャ頭の男がマスターで大丈夫なのかな……。というかマスターだったのか……。

 変な不安を感じたが、アオイよりも背が小さいオーバーオールを着た男の子がガーデンを責め立てるように話す。


「いっつもそういう言い訳して……。だから、俺が仕事増えて大変……ってあれ?この子は?」


「あぁ。この子は落生者リインだよ。あ、そういえば名前聞いてなかったね。」


「あ、えっとアオイ……です……。」


 人見知りをするアオイには、ガーデンで精一杯だったのにまた一人増えてモジモジしてしまう。


「ガーデンさん……。もしかして、自己紹介すらしてないんじゃないですか?」


「そういえば、そうだね。では改めて……私はこのギルドのマスターのガーデン。今後、アオイの仕事や身の回りのサポートをするからよろしくね。」


「俺は副ギルドマスターのリオン!この人の補佐っていう立ち位置のはずだけど……。」


 ガーデンを睨みつけるリオンにビビってしまう。


「あぁ!ごめんごめん!そんな怖がらなくて良いよ!俺が厳しいのはこの人に対してだけだから。」


 笑いながらガーデンの事を指差すリオンに尊敬の念さえ覚えるアオイ。


「はい。じゃあガーデンさんはマスターのお仕事して来てくださ~い。」


 ガーデンの背中を押し、無理矢理ギルドの中へと連れて行くリオンに慌てるように付いていく――。

 

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