いつかの鳥について

トロッコ

① いつかの鳥について

 一羽の鳥がいた。茶色いぶち模様の小鳥だった。毎朝、庭先でピイピイとか細く鳴くが、その姿を見たことはついぞ無かった。

 ある冬の朝、いつもとは違った目覚めが欲しくて、よれよれの青いパジャマ姿のまま庭に出た。空はまだ暗く、東の空が少し明るいくらいだった。冬に特有の冷えた、澄んだような空気が肺になだれ込んでくる。風は吹いておらず、口から出てくる白い息が真っすぐ立ち昇って、空へ消えていった。葉のざわめきは聞こえず、車の唸る音も、革靴が道を叩く音も聞こえない。人も空も景色も音も、全てが凍り付き、綺麗に洗われたかのような朝だった。

 そして、そこにあの小鳥を見た。時の止まった世界から抜け出す様に、突然草むらからピョンと飛び出してきた。あの消え入るようなピイピイという声で鳴くと、ピョンピョンとウサギ跳びをして、庭を横切っていく。私は何を思ったのか、それを追って捕まえようとした。小鳥が私に背を向けて止まったので、低く腰をかがめ、そっとつま先から踏み出して、気配を消した。小鳥はピョンと一つ跳ぶ。ピョンピョンと二つ跳ぶ。私はそれを追いかける。ピョンと跳ぶたび、そっと踏み出す。小鳥がもう一度跳んだのを追ったところで、庭に取り付けられたセンサー式のライトが私に反応してしまった。ライトの柔らかい光がフッと私を背後から照らし、私の大きく伸びた影が小鳥に覆いかぶさった。驚いた小鳥はピピピと鳴き声を上げると、まだ夜の残る西の空へと飛び立っていった。

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