第3話 生まれ変わり合宿
友達の付添いで『体が生まれ変わる』という合宿に参加した。
入口で手渡された『食糧』は、赤く透き通ってムチムチした手触りの、ボール状のものだった。
「いつでも食べ物が手に入ると思わないことだ」
案内役の言葉に、それより剥き出しで手渡しなのか、と心の中で突っ込む。
門から受付の建物を過ぎて、長い廊下を渡ると、寝泊まりする建物があるらしい。
廊下の手前で人の頭くらい入りそうな排水管のようなものがあり、そこから透明の『食糧』が追加で提供された。
ずいぶん気前がいい。
しかし案内役の言葉が気にかかる。
これが合宿でもらえる食糧の全てなのではないか。
もしかして合宿中、これしか食べられないのか。
ちびちびと大事に食べた方が良いのか。
両手にムチムチと揺れる食糧を持って歩いていると、廊下ですれ違う人達に見られている気がして、持参したリュックの中にしまった。
合宿施設に着くと、ロッカーに荷物を置いて鍵をかけた。
そこには先にプログラムを進めている人達がいて、軽く挨拶する。
夕方には食堂で、質素な食事をとった。
食事、あるんだ。
しかしいつまで提供されるか分からないな。
あの『食糧』の出番はいつだろう。
と不安を感じていた。
食事を終えて取り留めのない話をしていたが、途中で記憶が途切れた。
「助けてください。お腹が空きました」
かぼそい女性の声がする。
肩の下まで土に埋められた女性が、暗闇で泣いている。
私も友達も、ああなるのだろうか。
眩しい明かり。
激しい音楽。
四肢に縛り付けられたゴム製のベルトに操られて踊り出す。
全てが突然だった。
いつの間にか寝ていて、いきなり起こされた。
睡眠、起床、運動、全てが強制的に管理される。
これは体が生まれ変わるのも当然だ。
と、飛んで跳ねて、他人事のように考えた。
運動が終わると、また暗転。
睡眠は夜だけではないらしい。
私は妙に楽しくなってきた。
同時に不安も感じた。
あの女性。
プログラムの一環か、何か罰を受けていたのか。
合宿を乗り越えると体が生まれ変わる。
じゃあ乗り越えられなかったら?
「助けてください。お腹が空きました」
あの声がまた、聞こえた気がした。
【完】
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