第11話 女児、暗躍する
「ア…、
「お父様!!お気を確かに!!!それはいかがわしい写真ではなくただの
《山のように詰まれた書類が所狭しと置かれているオーラヴの執務室に、父を励ますアストリットの勇ましくも可憐な声が響いている。かれこれ二年ほど続いている、月末の光景である。父と娘は今日まで、寝る時間を惜しんで、荒れ果てた土地を豊かな村にするべく尽力してきた。様々な種族の棲み分けを提案しつつ友好関係を築き、産業の基礎を作り地域の活性化に成功し、娯楽を多数企画し魅力にあふれた施設を次々に完成させ、その甲斐あってナンセンは見違えるような変貌を遂げたのである。このたびめでたく村全体のマップが完成したため、親子は最後の作業の仕上げの作業に追われることになり、6日連続15時間勤務というハードなスケジュールをこなさねばならず無理が祟ってないかな、アアア心配だ早く休んで、お風呂入ってあんなトコやこんなトコもキレイに磨き上げてもらっててゆっかもうずっとあちゅの生脱ぎ入浴生洗い生ふきふき生ホコホコ見てないぃイイイイイ―――!!!》
…ああ、ナレすけも疲れておかしなテンションになっている。ナレーションなんだからさあ、好きな時に休んで疲労回復に努めればいいのに!!
脱衣の館のオープニングイベントの会議にフルで付き合ったり、肉壁ハウスの視察でドン引きするような明細実況したり、二次元工房の作品チェックに勤しんだりさあ、もっと自己管理をしっかりして欲しいんですけど?!
―――ああ、令和の世で勤めてた時に社内泊ありの15連勤・残業200時間オーバーの経験がものを言っているのね。
大型販売店の棚卸(たなおろし)って過酷なんだね…次に日本に生まれたら絶対に働きたくないなぁ。覚えとこ。
忙しいながら、毎日活気のある、やりがいにあふれた日々を送っている…今日この頃だけれども。
……私の三歳の誕生日パーティーが開かれた、あの日。
あの日が無ければ、今のこの満たされすぎた毎日は、絶対に…存在していなかった。
直前で緊急事態が発生して…大慌てでお父様のお部屋に行かざるを得なくなって、ナンセンの今後の歴史なんかについて事細かに書いたカンニングペーパーを持たずに凸する羽目になってしまって。
どうなることかと思ったのだけれども…、どうにかこうにかエロに貪欲なお父様を納得させることができて、超強力な協力者になってもらえたのよね。
てゆっか、バースデーパーティー、マジ危なかったんだよね!!
お母様が全力で推してる歌劇団のトップが、まさかのお父様と知り合い(スケスケおぱんつを愛でる会会員)だったなんて!!
私を喜ばせるために呼んだサプライズゲストが、お母様の毎夜の懸想相手だとは思わないじゃない?!二人で楽屋抜け出してコソコソ話をしてるのを見たお母様がめちゃめちゃ嫉妬して、危うくおかしな悪魔と契約するところだったという!!
ホントどこから繋がってくるかわかんないなあもう!!ナレすけがお母様にマジGL
お揃いのネイルなんか…お近づきを求めて宝毛に願いを託してた事なんか、誰がわかるかっ!!【ゼンブシッテル】が有るからと言って、全部知ってたとしても!!知ろうと思うきっかけがなきゃ知ることはできないわけでね?!
イケメンに憧れて闇精霊化した奥さんに踏ん張ってもらって、ガッツリ押さえ込んでてもらってさ!!いつも芝生をむしってた陰キャの妖精君に呼び出し魔法陣の表面荒らしてもらってさ!!絶頂を延ばしたいと欲張ってポックリ逝っちゃったおじいちゃん精霊に時間遅延の魔法を繰り出してもらってさ!!
はっきり言ってたくさんの
あれかなあ、ゲームの中でお父様がお母様を亡き者にしてって流れ、もしかして真相はこんな感じだったんだろうか?
―――ゲーム製作者はなんとなくでしか想定していなかったから真相が存在しないのか。
なんだかなあ、微妙にゲームの中のストーリーと現実がリンクして入るんだけどいまいちこう…スッキリしない。まぁ、いっか。
とにもかくにも、リアル変態仲間(ただし肉親)をゲットした私、
エロに寛大で包容力のある、自由で誰にも縛られない、真実の喜びがあふれる場所を作ることに性交じゃない大成功したのだ!!!
地味に人たらしで何でも愛嬌で乗り切ってきたお父様、フレンドリーだけで人脈を広げていたガサツで無神経な一面もあったりしてポカも多く、やらかすたびに吹き溜まってた
わりとこう、なんていうんだろ、捜し求めるものと自分の活躍の場を探していた存在をマッチングさせるのにはまっちゃってさ!!
獣人やエルフをはじめとするさまざまな種族の皆さんの不満に耳を傾けつつ問題解決の糸口を探り、毎晩のようにナンセン改革計画を話し合い、資金を生み出すものを探し、荒々しい岩を削ってまろい平和感そのものののどかな風景を作り、地域住民たちに魅力的な企画を提案し、現場で盛り上げ、どこに出しても恥ずかしい…いや、世界に誇れる歓楽街が完成しましてですね!
…あれだね、リアル街建造ゲームって感じでさ、ついつい夢中になっちゃったんだよねぇ。ほぼほぼ不眠不休(お父様はぼちぼち抜け出してたけど)で没頭しちゃって…納得のできる街づくりをしてたらいつの間にか完成してたみたいな。
まぁ、都会都会したビルなんかはないけど、大人気の温泉街みたいな雰囲気は出せたと思うよ!!
ストリップ劇場にパチンコ、賭博場に射撃にゲームセンター、公共の混浴にヌーディストビーチ、秘宝館にディスコ、カラオケスナックにハプバーに女王様の館…歓楽街と居住地をきっちり分断したので、住み分けはばっちりだし!!
資金の尽きた人を救う地域奉仕活動との紐づけシステム及び
フフ・・・やったよ、やったよママン…もう全然姿見てないけど、私、元気でやってるからね……。
執務に追われて忘れ去っていたお母様の事を久しぶりに思い出したので、意識をそちらに持って行くと・・・ああ、今は詐欺メイクに凝っていらっしゃるのね。すごくかっこいい青年と共に内緒のライブ実況を…わりと視聴者多いな、投げ銭がどんどん集まってる!!
って…なんだ、この人女子だ!!めっちゃ頑丈にサラシ巻いて…ああ、お母様も…なんだぁ、胸がふくよかな事、コンプレックスだったんだねぇ……。
「あー!!!終わった!!全部チェック完!!も…ダメ、精根尽き果てた、なのに元気すぎる下半身・・・完全に僕の体のシステムがトチ狂ってる、ウフ、えへ…あは、あはは……、あ、こんな所に僕ちんの欲しいものが、ウヒヒ…」
「お父様お気を確かに!!!それは特産品の子宝飴です、舐めるなら本物を!!今、今回復してさし上げますから!!…ここで脱いではなりません!!無駄撃ちになります!!赤い玉が出たらどうするんです!!イェンス牧師が泣きますよ?!」
ヤバイ、詰め込みすぎたお父様がいつも異常違った以上におかしなことに!!
ええとー!!誰か、助けて、プリーズ!!…おお、アソコにいるのは!!!
おねだりのきつい嫁につぶされて闇落ちしたおじさん精霊を手招きして…ご自慢の回復力を分け与えていただき!!清楚を貫いていたのにいざという時に性欲が大爆発してドン引きされて最愛の人を失ってしまった女子の宿ったウサギの妖精を抱っこして持ってきて…理性を取り戻す魔法をかけていただき!!
「…すまないね、アストリット。どうやら錯乱して…みっともないところを見せてしまったようだ。父としてふがいない…ねえ、み、見捨てないでよ?!あきれないでこれからもいっぱいいやらしいこと教えてね?!嫌いにならないでね?!」
「嫌いになんてなりません!!むしろあけすけで何一つ隠さず披露して下さるお父様にはトウトミすら感じます!!いいぞこの調子もっとやれです!!」
《アストリットの広い心は、父親譲りのようだ。心強い言葉を聞いたオーラヴの体に力が漲る。おお、愛娘の甲斐甲斐しいまでの献身はここまで力を与えたもうものなのか!!神だ、ここに神がいる!!!捧げよ!!われの愛を!!おお、慈愛の精神きわまれる・・・》
ああ…ナレすけが感動でおかしなことになっている。
そうだなあ、この人もわりかし不眠不休に近い感じだし、ホントこの辺でちょっときっちり休んでもらって正常運転に戻ってもらいたいところだ。
……この世界に実体が存在していないナレすけには、精霊の魔法や癒しのパワーは届かないからなあ。自力で回復してもらわなきゃなんないんだけど…、私も久しぶりにゆっくりと休もうかな。そしたらきっとナレすけだって…、そんなことを考えながら、ため息を、一つ……。
「……ねえ、アス…ちょっと顔色悪いよ?無理してるでしょう?大丈夫なのかい?パパは心配だよ、こんな難しい話ばかりして…。君はまだ、五歳にもなっていないんだよ?たまには何もかも忘れて、お友達と遊んだり、野原で駆けまわったり、体全部を使って楽しまなきゃ」
お父様は…ド変態の能天気アッパラパーではあるけれど、やっぱり私の…お父様なのだ。ちょっとした体調不良に目敏く気が付いて…こうしてたまに、小言を、挟む。
「…心配して下さってありがとう!私は…大丈夫よ?ほら、精霊さんたちが一生懸命回復してくれるもの!!それに、地図も完成したから、これからはもっと時間も取れると思うの!私、もっと大人が子供心を取り戻せるような施設があるといいなって考えてて…」
…まずい。なんか…元気と正気を取り戻したお父様が、ちょっと真面目な表情になってる…。いつもへらへらニラニラしてるから、地味に、めちゃめちゃ…来るものが。
ヤバイ、視線が真剣すぎて、目が…合わせられないよ……。
「アス、パパはちょっと怒ってるんだよ?君は…君の中にある大人になった経験は、前にいた世界の出来事であって、アストリット・グドブランズドーテルは、まだ大人なんかじゃないんだ。この世界ではまだまだ子供…、僕の愛おしい小さな小さな一人娘なんだからね」
きょろきょろと視線をごまかす私の前に陣取り、頭をそっとポンポンしながら…目をのぞき込むお父様。真夏の晴れ渡る空のような、きれいな水色のやさしい眼差しが…沁みる。
「……お友達はね、神の呼学園を退学になってから作ろうと思っているの。だって、私…お話、できないことにしているから」
私はスキル持ちだから、五歳になったら『神の呼学園』に入学しなければならない。そして、そこで…【特別学習を受けるに値しない子供】と判断される必要がある。
さもなくば、私はお父様という最大の理解者兼味方を失い、18まで学園に囚われ、悪役令嬢認定をされ、聖女と攻略対象者たちに追い詰められ、命を落とし…星が爆発してしまうのだ。
【神の呼学園】関係者は、スキル持ちの子ども達を散々育て上げてきたプロだ。愛する我が子を学園に入れないため、ああでもないこうでもないと策を練った親たちの努力を知り尽くしている。今でも月に一度の訪問観察は続いているし、どこでどう情報が漏れて、【ゼンブシッテル】の全貌がバレるかわからないため、私はお父様以外の人間には一切口をきいていない。「はい」と「いいえ」それだけで私は意思の疎通をして過ごしている。
このお父様の執務室だって、遮音魔法と隠蔽魔法のロウソクをフルに使って、さらに隠密能力を操る元ストーカーの精霊に協力してもらっているからこそ、ここまでカオス化していても微塵もバレずに済んでいるのだ。
普段はお父様にだっこされて、視察に同行したり、お部屋に連れて行ってもらったりしているので…いつでもどこでもべったりな、父と娘にしか、見えない。
間もなく五歳になるのに、「はい」と「いいえ」しか言えない、頭のできの悪い娘だと…知恵が足りないから父親のそばを離れられない憐れな子だと…蔑む者も、少なくない。
事情を一切知らないとはいえ、ストレートにいろんな感情をぶつけられると…悲しいので。なるべく、楽しい事、夢中になれる事を探して、そっちばかり見てたらこんな感じになっちゃった部分もあるんだけどね!!!
「じゃあ…約束だよ?来週の、【神の呼学園】の入学審査が終わったら、無事入学が免除されたら…必ずお友達をたくさん作って、いっぱい笑うこと!!……いいね?」
「…わかりました。お約束、します……」
ああー、お父様の、優しさがジンとくる……。
……って、こんないい場面なのに、ナレすけはなんで黙り込んでいるの?
―――ああ、精根尽き果てて、爆睡してるのか。
ああもう…こういうところが残念なんだよねぇ……。
絶対ここ一番の見せ所でくしゃみして地面見ちゃうタイプだよ、この人。
あーあ、私もなんだか眠くなってきちゃった。
……お父様の抱っこ、あったかい。
……もう、このまま、寝ちゃお~っと・・・。
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