44 -擬似恒星
ケプシャルが得意とする強力な攻撃魔法
それに詠唱を加え、更に強化し新月丸の目の前で放った後、エプシャルは速やかに遠ざかる。
ケプシャルを利用し門を焼き払った時より、遥かに大きな炎の円柱が新月丸を包み込んだ。火柱は天高くまで太く強く立ち上がり、広場に新たな真っ赤に焼ける鉄の柱が作られたように見える。
放たれたそれは、もはや炎ではなくオレンジ色の物質的な柱にしか見えない。
けれども———
「そんな近くで
灼熱の柱の中からやれやれ、といった表情で歩いて出てきた。
「これ、タイボンとか言う処刑道具に似てんな」
そんな軽口で相手に話しかけられるくらい、新月丸には余裕がある。
けれども、そう言ってエプシャルを見た新月丸は、すぐに顔をしかめた。エプシャルの髪も服もそこにはない。上半身は真っ白に変色しヌメヌメした質感に変わっていた。先ほどまでの姿はそこに無く、全く異質なものである。
流れ出る血混じりの涙が増していて、とても痛々しい。
「……」
エプシャルを操る者は、当然だが痛くも痒くも無い。
強烈な魔法を無理矢理に使わせ、巻き添えになり命が無くなっても構わない。
リモコンで操るロボットとして、使える限り使い倒すつもりなのだろう。エプシャルが受けるダメージなんか度外視した攻撃を仕掛けてくる。
ケプシャルもエプシャルも、それまでに多くの奴隷を玩具にし残酷にもて遊んできた。だからその番が回ってきただけ。
痛い目に遭った所で、それを哀れには思わない。
しかし、彼らを操る
「己の側近をこんな風に扱うのか……」
先とは違う、詠唱を口にしながら尚も武器を振り回し向かってきた。
操られているからか、酷い熱傷を負いつつも動きは全く衰えない。
けれども上半身からは動くたびに粘性を帯びた汁が垂れ落ち、ダメージの激しさを物語っている。
詠唱には小さな
自我も意識も殆ど無いと思うが、肉体の辛さはあるのだろう。
———俺としてはまだ、様子見をしたいがさて、どうするか?
さっき放った
———けれども
今、放ってきたのと同じ威力の魔法が使えるとしたら。
ケケイシの所へ向かったであろうケプシャルは、ここに居るエプシャルよりもっと強力な攻撃魔法を使える可能性が高い。助けよと命じた怪我人を庇いつつの戦いが、あの2人にとって困難を極めるのは明白だ。のんびり試している時間の余裕はないだろう。
(まぁ、試すのはケプシャルを使えばいっか)
「エプシャル、すまんな。さっさとお前を消さなきゃならん」
詠唱が終わるとエプシャルが持つ武器は、大きな球体に形を変え、まるで小さな太陽みたいだ。それを持っていた手は焼け落ち、炭化が進む。
灼熱の球体を投げつけてくると思いきや、そうではない。
炭化した手から腕……肩———
エプシャルが球体にどんどん吸い込まれている。
新月丸もそれに驚いたが、エプシャルはもっと驚いているようだ。
今まで自我を感じられなかったが今、表情が恐怖で固まっている。
「やめ……まだ……生……きた……い……」
吸い込まれるのを拒むエプシャルは、新月丸を許しを乞うような目で見つめ、助けを求めるように片方の手を新月丸に伸ばす。
その手を取り引っ張り出して欲しいようだが、新月丸にそんな気は全くない。
「嫌……嫌……だ、まだ……」
頭部が吸い込まれる時の悲鳴は衝撃波となり、辺りの建造物の一部を吹き飛ばす。太陽のような球体はエプシャルを完全に取り込み、二周りほど大きくなった。
「いっちょ前にフレアみたいのまで出してやがんのな」
衝撃波も新月丸にとってそよ風だ。
黒髪が僅かに揺れたに過ぎない。
目の前に浮いているのは特定の者の意思を反映する小さな太陽———
その熱は凄まじく、床の石材を溶かしつつある。
大きな光を放ち膨張を始め、更に熱が増す。
(ここで爆発させる気か?そうすりゃ結構な熱量だもんな……)
———私に楯突く愚か者よ……この熱をどう、防ぐ?
この球体は事実、極小の太陽と言えるものだ。
エプシャルに持たせた釘バットに似た形の武器はハーララの宝具の1つ。その名を
ハーララで3位の強さにあるエプシャルを取り込んだ
広場周辺の木々は燃え、そこに流れていた小川は蒸発し、球体直下の床板は溶岩となりグツグツと煮立ち始める。
(美しく整えられたこの場が勿体ないな……)
新月丸は左手を
———触れたな!お前もこれでただでは済まない!
———吸い込まれ、我が武器の熱源となれ!
エスターゼ・ラニサプは自らの勝ちを確信し、高笑いが抑えられない。
月光国の王は私が思っていたより魔素値が高い。
宝具
吸収後の宝具を我が手にできれば、私が神の中で頭一つ抜けた存在になるのはもう、時間の問題だ。
私以外の者も物も、全ては私の養分であり道具でしかない。
それは国内も国外も不変である。
私の為に吸収される様を、ここでゆっくり見届けよう———
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