27 -ハーララ国内にて
「只今、戻りました」
平伏し顔を上げず、玉座に座る王に伝える。
頭を下げる者を満足そうに見て王は言う。
「私が心より喜べる情報を持って来たか?」
頭を上げないまま
「新月丸蒼至が王宮を出発し、あなた様の国ハーゥルヘウアィ・ララへ向かっています」
「ほほう…あの愚か者が私に会いに来るというのか」
玉座に座る者はバカにしたような笑みを浮かべた。
「私の前に来た時点で、焼き尽くしてやろうか」
「我が王であれば、それくらい
「フリーゾーンを通って向かっているのか?」
「はい、
「そうかそうか。それなら我が国に着くのはまだ時間がかかるな」
「はい。国交が無いので時間がかかるのは確実かと」
「であれば月光は今、王不在なわけだ」
「その通りでございます」
この会話の間、玉座の前に居る者は平伏したままである。
「そうだそうだ、忘れておった、
「はっ!ありがたきお言葉でございます」
それでも、平伏したままだ。
「
「それでは失礼致します」
平伏していた者はやっと顔を上げる。
この王の前では許しが出るまで、顔を地面に向け続けなければならない。また、1度許されてもすぐに
「あの生意気な若造には仕置きをしてやらねばならんと私は考えておる」
「その通りでございます」
「しかし、仕置きをしにわざわざ私が出向くのは勿体無い」
「その通りでございます」
「月光の王が居ない間、国内を破壊し側近を殺そう」
「それは効果的なお仕置きでございますね」
「それで…だ、オゥンシフモ。お前は誰が適任だと思うか?」
そこでしばらく考えを巡らせる。
玉座の前に平伏していた者は、この国で最も気配を隠すのが上手い。この国に…いや、この国の王に都合の良い情報を様々な人や国から盗む役割をしている。それであっても月光国の城内には入れず、結果として新月丸が旅立ってから半日程度しか見られなかった。
更にオゥンシフモは降り注ぎ跳ねる「死の水」を防げず、足にほんの数滴、付いてしまっただけでスパイとしての役割を果たせなくなる怪我を負う失態をしている。恐らくそれに関して主から、ある一定の理解は得られているとは思う。
しかし「この国に着くまでの間、ずっと情報が欲しい」と主が思っているのは確実で、それが不可能だと言えば決して許されないし、半日だけの情報を持って来たのも快く許している訳ではないと、長い付き合いので理解している。
この質問に間違った回答や王の気に触る言葉を言いたくはない。
主は自分が行きたいのだ。
自らの手で手酷い目に遭わせたい。
でも国を空けるのもしたくはない、という所だろう。
「私としましては王が行かれるのが最も有効と言わざるを得ません」
「ほほう…」
「しかしながら下賤の者に王が手を汚すのは勿体無いとも思うのでございます」
「ふむ…」
「王の御手は綺麗なまま、愚か者共にあなた様の素晴らしさと力強さを示したいっ!」
「そうかそうか」
演技がかった大袈裟な言い方をするオゥンシフモ。これをこの国以外の者が見れば正直な所、引くだろう。しかし、この国に生き主と関わりを持つ者達の間では「敬意と尊敬を示す当然の物言い」なのである。王の言葉が短いのは機嫌が良い証拠だ。
「全て2番手のものを使い、余裕を持ってねじ伏せるのが宜しいかと」
——王に次ぐ地位と力有る者。
——王の武器の次に強い武器。
「ケプシャル様が適任と存じます」
「ふむ…ケプシャルなら、余裕であの国と側近の蹂躙を愉しめるだろうな」
「はっ!」
深く、頭をさげる。
「よかろう、ケプシャルを向かわせよう」
「私の案を採用いただき、ありがたき幸せにございます」
「続けて新月丸蒼至の後をつけるのは可能か?」
「!」
ここで言葉に詰まる。
実を言えば、たった数滴の死の水は触れた周辺を
「…
「ふむ」
玉座から立ち上がる王を感じる。
謁見の間から姿が完全に見えなくなるまで、頭を下げ続けた。
その後、治療院へ再び行ったが治せる者はいない。
痛みだけを誤魔化す治療を受け、再び新月丸蒼至の偵察へ向かうしかなかった。
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