01 -2XXX年、魂の価値

 世の中には存在価値を有しない者が、のうのうと生きている。


 例えば。


 有害物質を含む煙を出す嗜好品。

 本人のみならず、他人の健康にも好ましくなく毒性を考えた結果、それを楽しめる場は限られる。しかし、何時でも何処でも楽しみ、迷惑顧みず禁止の場所でも有害な煙を垂れ流す屑がいる。


 例えば。


 安価で誰でも使える便利な乗り物。

 危険を有する物だから、通行する向きや乗り方が方により定められている。しかし、危険な逆走を当然面でした上、事故が起きれば逃げるか被害者面する屑がいる。


 例えば。


 混み合った場の順番待ち。

 誰もが早く自分の先に行きたくても、一般常識を有する真っ当な者ならきちんと待つものだ。しかし、己さえ良ければ全て良しと考え割り込みをし、注意されれば逆ギレをする屑がいる。


 それらに存在価値があると俺は思わない。

 素行不良の奴がいたところで、なんの意味があろう。


 他にも挙げればキリがないくらいに屑共は多く、それに対しての取り締まりは存在しない……法的拘束力がない迷惑行為は犯した者が得をし、真面目な者が損をして終了。


迷惑をかけた本人は「それくらい皆してる」「してやったり」「得した」「何か悪い事しましたか?」といった姿勢で世の中に存在する。悪いことをした、という認識を全く持っていない。


 更に言うのなら——もっと重い犯罪をしても、捕まらなければ裁きはくだされない。


 捕まったとしても、だ。

 年齢がどうの責任能力がどうの精神鑑定がどうの……と加害者の保護ばかり重要視する。


 被害者はないがしろ。

 おかしなことに、近頃では謎の不起訴も頻繁にある。


 この世の中は、理不尽にできている。

 

 なぜ、そのような振る舞いができるのだろうか?


 正しき者が損をするのはどうしてだ?

 悪しき者が得をするのはどうしてだ?


 大きな理由の1つは、この世界に生きる者の殆どが「死んだらそれで終わり」と思っていからだろう。


 この世に生きる、人という種は死後を気にしない。屑共は「どんな悪事をしても裁かれなければ得をするだけ」としか考えない。この世で・・・・命を失うその時まで・・・・・・・・・——食って寝て他者をしいたげ、楽に狡猾こうかつ私利私欲しりしよくを満たし、他者へ迷惑かけ放題な人生を謳歌する。


 けれども。


 信じる信じないに関わらず、肉体の死は終わりではない。

 この世で死んだらそれで終わり、死者は裁けない……ではないのだ。


 輪廻転生、などと言えばスピリチュアル系だの宗教っぽいだの。

 胡散臭いものとして捉えられがちだが、実際にそれらは存在している。


 けれども屑に輪廻転生なんてものは勿体ない話で、さっさと滅べば良い。


 滅ばないのなら、滅ぼしてやれ。

 他者へ行った迷惑も犯罪も、己の苦しみとして永遠に味わわせてやる。


 この世で生きているうちに裁かれなくても。

 この世でのうのうと生き、寿命まで逃げおおせても。


 俺はそいつらに罪の精算をさせる事が出来る。


 誰も気付かず、本人すら気付けず。

 真なる意味でダメージある形で裁いてやる。


 転生の輪は断ち切られ、行いによっては未来永劫に苦しみ続ける。


 あまりの苦しさから謝罪を始め「助けてくれ」なんて図々しい言葉を吐く奴も少なくない。


「さっさと解放しろ」

「たったこれくらいの事でこの罰は重過ぎる」

「そんなの皆んなしているのに何で俺だけ私だけ⁉︎」


 そもそも……だ。

 “たったこれくらい”であるのなら、定められた規則やルールを守ればいい。

 皆がしていれば、悪事やマナー違反をしても良いと思っている屑は、苦痛で罪をあがなうのが妥当。


 転生を断ち切られた後。

 地獄と呼ばれるに相応しい場所へ送られた後。


 そこから反省しても、もう遅い——


 ここは少し前まで、とても栄えていた島国。

 この国の者達は24時間、戦っているかの如く働き技術を磨き信頼と大金を得てきた。


 しかし、ここ数十年は景気低迷を続け、衰退の一途を突き進む。

 本来であれば『政治家せいじか』であるはずの者達が『政治屋せいじや』と呼ばれるくらいに腐敗してしまったのも、大きな原因の1つだろう。


 政治屋は自らと官僚、一部の特権者や大手企業が得するように働き、私腹を楽に肥やす事に夢中だ。


 中には立派な政治家と呼べる者もいるのだが、何せ多勢たぜい無勢ぶぜい


 政治家と呼べる者は少数であり手腕を振るう前に『政治屋』から潰されてしまう。

 ……時として志半ばで、暗殺という名の不幸な終わり方を迎える。


 そう。

 多くの者の努力で栄えた国をここまで弱体化させたのは、政治があまりにも酷いからだ。


 景気がどれだけ悪くても、政治屋と呼ばれる者は自由に税を上げられる。

 搾り取った税の使い方はなにもかもが自由で無駄遣いに規制は一切ない。


 政治屋は税を納めた自国民より外国や外国人を大切にする政策ばかりをし、その他、謎の団体や意味のない政策へ多額の金を注ぎ込み満足気。


 実際に困っている国民へは出し渋る。


 脱税は厳しく取り締まり、法により罰も用意されているが『政治屋』の脱税は無罪放免。


 本来なら大規模な、デモやクーデターが起きても何ら不思議ではない。


 この国特有のおとなしい性質は、悪政に文句を言いつつ黙々と税を納め国に反旗をひるがえすこともなく、真面目に労働にいそしむ。


 政治屋は胡座あぐらをかいているのだろう。

 一部の者にだけ、都合のいい法律が次から次へと施行され続けた。


 政治屋は自国民を保護しない姿勢をつらぬく。


 特権者にとって何とも都合のいい、この国の在り方が当面続くのは間違いない。


 今のこの世は特権者や有力者の下に生まれられれば、イージーモードと言われる人生を送れ将来が約束されている。


 それを証明するかのように、政治屋は代々続く世襲せしゅうも多い。

 何の苦労もなく世襲で継いだ政治屋に、一般国民の生活が分かろうはずもなく延々と愚策が続く。


 そんな中で生きる一般国民は大変だ。


 いわゆる『代々続く良家』ではなく、ツテもコネも持っていない。

 生まれ持って恵まれた特別な才能のない凡人や一般人は、人生をかけた椅子取りゲームを常にしなければならない。


 そして更に残酷な事実がある。


 努力は必ずしも結果を出すわけではない……ということだ。


 頑張っても結果を出せなければ、認められない世界である。

 当然、落ちぶれる者は少なからず出てきてしまう。


 それらは『努力不足』『自己責任』として片付けられ、容赦ようしゃ無く切り捨ててゆく。

 これでは、様々な面において格差は開くばかり。


 中には怠惰たいだな者も自業自得じごうじとくの者もいる。

 それなら、打ち捨てられても致し方ないだろう。


 しかし努力が実らない者や、ひたすら不運ふうんな者もいる。


 その者らも怠惰たいだ自業自得じごうじとくの者達と同様に容赦ようしゃ無く国も社会も打ち捨てる。救われるすべが殆どないこの国では、自らの命を断つ者は老若男女ろうにゃくなんにょ問わず、増加傾向だ。


 開く格差は更なる不幸を招く。

 無敵の人の増加である。


 失う物が何もない。

 命もまぁ、どうでもいい。

 親ガチャ失敗、家族が憎い…

 世の中が憎い、国が憎い、周りが憎い…

 報われぬ自分、何も持てぬ自分、何も持っていない自分…


 ——無敵の人。


 その者達は大罪を犯しても、失う物が無いから怖くない。


 逆恨みをする。

 思い込みもある。

 自殺ができないから死刑を望んで他者の命を無差別に奪う。


 そんな理由で、無差別殺人などの犯罪を犯す者も増えてきた。


 自暴自棄になり、自らの境遇きょうぐうの報われなさを外へ向けてしまう。


 追い討ちをかけるように、犯罪が正当に裁かれない事例も増加してきた。

 司法しほう関係者がやりたい放題できるから、裁きが公平ではない。


 証拠のもみ消しだって可能だ。

 不起訴ふきそ理由を明かさないのも自由。


 犯罪を犯した者の属性によって謎の忖度そんたく優遇ゆうぐうを加えられ、今や同じ内容の犯罪であっても、裁かれる者と裁かれない者がいる始末。


 俺から見たここは『良き世の中』には感じられない。


 凡庸ぼんような者。

 努力が実らぬ者。

 不遇ふぐうな生い立ちの者。


 それらの属性ぞくせいで、伝手つてもコネも無い一般人なら——


 国に逆らわず黙って良い子に低賃金の単純労働をしておけ。

 国に税を搾取さくしゅされ、踏みつけられた生活をし、誰にも迷惑かけず勝手に死ね。


 この国の流れはそうなっている。


 国民のために見えるだけの政策をし、一部の者に端金はしたがねをバラき、いた後にはそれを回収する。


 配った金より、増税で多くせしめるよう仕組まれているのが裏のお約束だろう。


 つまり。


 一部の者は税から金が楽にふところへ入る。


 大手の会社だけ減税される事もしばしばだ。

 法人の種類によっては納税しなくても良い仕組みまである。


 しかし…


 真っ当まっとうな者を踏みにじり税から楽に金を得られる政治屋達も。


 ツテやコネだけでざいを成し他者たしゃを見下す者も。

 努力が実らない者の切り捨てをとする者も。

 悪事が正当に裁かれずのうのうと生きる者も。

 マナーやモラルが不品行ふひんこうで迷惑をかける者も。

 偶然ぐうぜん持っていた才で成功し、他者を努力不足と叩く者も。


「その時」を迎えたら気付く。


 ……どれだけおろかに生きていたかということに。


 俺は力と特権がある。


 この世の価値観だと権力者は好き勝手できる。

 この世の価値観では才や力ある者は、自身より劣る者を見下してもヨシとされている。


 であるのなら、俺にはお前らを自由にする権利があるという事だ。


 何も知らぬまま富と地位を満喫し、この世でだけ面白楽しく傲慢ごうまんに生きればいい。


 気付いた時は既に手遅れなのだから。


 この国は……いや、この世界は。


 人心が年々荒んできた。

 多くの人にはもう余裕が無い。

 かつてはあった情もどんどん失われていく。


 今は2xxx年。


 俺は訳あってこの世界ともう1つの世界、両方で生活をしている。


 正直を言えば、現世の人間は好きになれない。

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