アンビバレンス

道草

第1話

 目が悪い君が好き。

 「届け」と願う。「見ないで」と遠ざける。

 引力と遠心力の間で、矛盾を孕んだバランスを保つ私たち、まるで人間のよう。

 この重力がちょうどいい。

 届かないから、言葉でハグにしよう。

 指先で触れ合えない代わりに、視線を交わそう。

 君の引力と私の遠心力が崩れないうちに。

 この日々が続くように、今日は「おやすみ」にしよう。


 よく見えない方がいいんだ。

 「会いたい」と思う。「消えたい」と嘆く。

 巡る巡る日々のなかで、アンビバレンスをぎゅっと抱いて、壊れないように。

 この相反が心地いい。

 そんなに会えないから、次の話を考えておこう。

 少しでもマシに見えるように、笑ってみよう。

 ささいな幸せが枯れ果てないうちに。

 朝日が昇ったら、「おはよう」にしよう。


 遠く離れたモノは綺麗に見えると言うでしょう?

 見えないものは理想で補うのでしょう?

 綺麗じゃないから近くで見ないで。

 伝えたいからそう遠くへ行かないで。

 どうか美しい私のままでいさせて。

 背中を向けたまま公転するの。

 引っ張られながら、落ちないように落ち続けていく。

 君に行き着かないように、見失わないように、君に向かって進み続ける。

 引力と遠心力の間にあるそれを、愛と呼ぼう。


 目が悪い君が好き。

 「届け」と願う。「見ないで」と遠ざける。

 両価の愛が二つに割れるまで、生き続けてく私たち、まるで物語のよう。

 月並みな日々が愛しい。

 届かないから、言葉でキスにしよう。

 バレないように、静かに泣こう。

 この距離が変わらないうちに。

 眠ってしまう前に、君に「好き」と伝えておこう。

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アンビバレンス 道草 @michi-bun

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