第147話 猫の習性が残っていたようだ

■カイト


翌朝、再びリブラムの冒険者ギルドに行った。


中は冒険者でごった返していた。


冒険者は全員ギルドに集まって今後の方針を話し合うとグリエルが言ってたのだから当然か。


上級の冒険者は居なくなってしまったと聞いたが、中級以下の冒険者はまだまだ結構な数が居るようだな。管理ダンジョンがあって稼げる街なのでもともと冒険者が多いのだろう。


『よう、よく眠れたか?』


声を掛けてきたのはスタッドである。『鉄壁』というパーティのリーダーだ。後ろにはアリー、ダイモン、ボルディ、ダックスと『鉄壁』のメンバーも揃っている。


スタッド「昨夜はどこに泊まったんだ?」


「家に帰ったにゃ」


実は夜は一旦帝都のメイヴィスの屋敷に転移で帰って寝たのだ。メイヴィスが用意してくれた最高級の寝具の寝心地は最高だからな。(まんまとメイヴィスの思惑にハマっている気もするが…。)


アリー「あれ? 帝都で活動してるって言ってたけど、この街に家を持ってるの? もしかしてこの街の出身とか?」


「いや、俺の家じゃないにゃ、居候先にゃ…」


アリー「そう…あ! もしかして恋人の家!? 隅に置けないなぁ」


「そんなんじゃないにゃ、というかこの街ではなくて…」


だがその時、ギルマスの執務室の扉が勢いよく開き、一人の男が出てきた。上等な服を着ているので貴族だろう。


アリー「ちっ、ギルマス来てたんだ…」

スタッド「聞こえるぞ」


へぇ、あれがこのギルドのマスターか。


出てきた貴族の男は集合していた冒険者たちを見て目を見開き足を止めたが、苦々しく顔を顰めて言った。


ギルマス「ちっ! サボってないでさっさと魔物を狩りに行け! お前ら冒険者の働きが悪いせいでスタンピードが起きたと領主様はお怒りだぞ!」


いきなりの暴言に口には出さないが冒険者達の気持ちが視線に溢れる。


((((なんだそれ…? 俺達のせいじゃないだろ?))))


それを感じ取ったのかギルマスの表情が少し怯んだ。


受付嬢「あの…これからそのための作戦会議を開くのですが、マスターも参加されますか?」


ギルマス「ばかめ、そんなのはお前らだけでやっておけ! 俺は忙しいんだよ!」


ギルマスは吐き捨てるように言うと、ギルドの扉を乱暴に開けて出ていってしまった。


アリー「嫌な感じね相変わらず…」


すると、執務室からグリエルが出てきた。


受付嬢「サブマスター、ギルマスが不機嫌そうな様子で出ていきましたが……大丈夫ですか?」


「ああ、いつもの事さ……


…全員揃っているな、ではスタンピードを終息させるための作戦会議だ。


朝、来る前に城壁に登って見てきたが、既に街の周囲を魔物が取り囲んでいる状態だ。魔物は城壁に攻撃を仕掛けてはいるが、今のところ城壁は持ちこたえている。これはカイトが張ってくれた結界のおかげだな」


冒険者1「カイト?」


グリエル「ああ、救援要請を受けて他の街から駆けつけてくれた冒険者だ」


グリエルが俺のほうを見たので冒険者の視線が俺に集まってきた。


「カイトにゃ」


グリエル「彼はまだEランクの冒険者だが、凄腕だ。絡んだりするなよ? 痛い目を見るのはお前達のほうだぞ?」


冒険者2「なんだよEランクかよ」

冒険者3「俺達がEランクの駆け出しに負けるかよ」


グリエル「今はEだとしても、おそらくすぐに上級に駆け上ってしまうだろう。実は昨日、魔物の攻撃で街の結界は一度破られたんだよ。だが、彼が即座に張り直してくれたので事なきを得たんだ」


冒険者3「そんなチビがか?」


「サイズに惑わされる奴多杉にゃ」


俺は巨大化してから牙を剥いて威嚇してやった。


「シャー」


冒険者3「ひぃっ!」


ちょっとだけ【威圧】を込めてやったが、偉そうな事を言っていた冒険者は尻もちをついた。


アリー「わーもふもふだー」


アリーがデカくなった俺の背中に抱きついてくる。後ろに居たスタッド達には威圧の影響はないからな。


グリエル「あー、みんなももう分かったろ? 見た見に騙されて相手の強さを計り損ねる奴は命を落とすぞ。ダンジョンの中には小さくて可愛くても死を招く魔物だっているんだからな。


カイト、ちょっと狭いんで元のサイズに戻ってくれるか?」


アリー「ええこのままでもいいのにー」


アリーの言葉は無視して構わず縮んでいく。


結果、アリーに抱きしめられる形になってしまった。


アリー「んーこのサイズでも抱き心地はいいわね…」


「離すにゃ、俺はぬいぐるみじゃないにゃ」


アリー「まぁそう言わず…」


「緊張感のない奴にゃな」


だが、アリーが俺の顎やら頭やらをコリコリと撫でる。意外と気持ちいい。こいつ、猫を飼った事があるのか? 気持ちいいのでそのまま抱かれていると、だんだん喉からクルクルという音が思わず出てきた。


おお、意外なところに猫の習性が残っているようだ…



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