第145話 傍若無人と書いてガルシアと読む

「一体何をしたんです?」


ガルシア「いや、ダンジョンコアが言うことを聞かないので、ちょっと脅して言う事をきかせようかと思って、剣でぶっ叩いてみただけだ…」


「で、締め出されたと…。その後、制御室には入れなくなってしまったのですか?」


ガルシア「剣は当たらなかったんだけどなぁ」


「あの、もしかして、ダンジョンの制御権を失ったとかじゃないですよね?」


ガルシア「そっ、そんな事はない…と思う……きっとスタンピードが収まれば、また制御室に入れるようになるさ。そうに違いない」


「まぁ、一度スタンピードが発生してしまうと、終了するまでは制御を受け付けないという話は聞いたことがありますのでね。それにしても…


…だから、以前にもスタンピードになる前にキチンと管理・調整するように進言していたつもりなんですがねぇ…?」


ガルシア「…っ! うるさい俺のせいだとでも言うのか? なんだその顔は? だいたいお前のせいだろうが!」


「はぁ??? 俺のせい???」


ガルシア「ダンジョン管理がそんな大事な事なら、お前がもっとしっかり俺にそうと伝えていればよかったんだよ! 父上にも『お前がしっかり管理していないからだ』と大目玉を食らってしまったではないか! どうしてくれるんだ!?」


「繰り返し…かなり何度も言ったつもりですがね…? 大丈夫だと言って聞かなかったのはアンタでしょうが!」


ガルシア「アンタ?! なんだその口の聞き方は!」


おっといけない、感情が高ぶって言葉が荒くなってしまった。


ガルシア「キサマ! 俺は伯爵家の人間だぞ?! 平民のくせに俺にそんな態度をとっていいと思ってるのか?!」


「…ほらそうやって聞く耳持たない…」


俺は肩を竦めるしかない。いつもの事だ。都合が悪くなると『平民ガー』と身分を持ち出し助言諫言を一切受け入れない。領主であるホセ様は人格者だが、ガルシアはあまり怒らせると癇癪を起こして本当に何をしでかすか分からない。


ガルシア「不敬罪で首を刎ねられたいみたいだな」


ガルシアが立ち上がり腰の剣に手を掛ける。それを見た俺は素早く腰を折り頭を下げた。


「すいませんでしたっ!!」


脅しではない、ガルシアは本当に、不敬罪で人の首を切る奴だ。以前にも何度か街の平民を斬り殺してしまう事があった。どれもガルシアが理不尽な事を言ってたケースだった。当然街の住民は領主に抗議したが……領主のホセはそれを有耶無耶にしてしまった。


いや、ホセは一応、ガルシアに罰を与えたらしい。だが、そんな事は平民達の知るところではないし、どうせ罰の内容も謹慎程度だろうと言われていた。


ガルシアに殺された者の遺族にはいくばくかの金を渡したようだが、金では買えないものがある。『父ちゃんを返せ!』と被害者の子供達は泣いていたそうだが、ホセは顔色一つ変えなかったそうだ。


だがそれでもホセは―――息子には甘いところがあるにせよ―――貴族の中では、実はまだマシなほうだ。なにせ世の中にはもっとあくどい貴族も居るからな。平民の命など使い捨てのちり紙程度にしか思っていない者達が。相手がそんな貴族であれば黙殺されて終わり。文句を言えばその家族も不敬罪で処刑なども有り得るのだから。


今の皇帝陛下は貴族の傍若無人を許さない方で、陛下の厳しい指導と処分で貴族達の態度は先代皇帝の時代よりはかなり改善されたと聞くが、貴族の根底の意識はそうは変わる事はないのだとも言われている。


そして、貴族に厳しい現皇帝の政権が長かった分、貴族達の不満も溜まっている。近年、陛下が高齢となり病の床についてからは、不満を抱く貴族達の抑えが効かなくなってきており、不遜な貴族が増えてきている。これから一体どうなるのだろうか、頭が痛いところだ。


などと考え事をしながら黙って頭を下げ続けたのだが、それを見てガルシアは少し溜飲を下げたようだ。


ガルシア「……まぁいいだろう」


ちょろい。まぁ、ガルシア程度の腕なら、もし本気で斬り掛かられても余裕で躱せるがな。


ガルシア「…しかし、さすがだよな!」


「…何がですか?」


ガルシア「さすがは伯爵家の“結界”だと思ってな。確認したところ、城壁は結界が強固で魔物共が城壁を破れる気配はないそうじゃないか。おかげで俺も安心してギルドにも顔を出せるというわけだ」


なるほど…ガルシアが冒険者ギルドに戻ってきたのは魔物の攻撃を受けても城壁(結界)が揺らいでいないという兵士長からの領主への報告を聞いたからか。臆病者のガルシアらしい。何せ冒険者ギルドは街の門(城壁)の近くだからな。


「いえ、その伯爵家ご自慢の結界ですがね、一度破られましたよ?」


ガルシア「……はぁ? 何を言っている? 現に城壁は魔物を防いでいるではないか?」


「それは、一度壊れた結界を、一人の冒険者が即座に張り直してくれたからです」


ガルシア「はぁ? 何を言っている? 街の結界は領主邸にある古代遺物アーティファクトで発生させているのだぞ? 個人の人間の魔法で街全体を守る結界など張れるわけがないだろうが……?」


「世の中、稀には規格外の者も現れるんですよ…」



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