第76話 帝都で紅茶を飲む
メイヴィス「誰が迷子の徘徊老人じゃっ!」
「おっと独り言がまた出ていたか。気をつけよう。
ところで、ふと気付いたんにゃが…」
メイヴィス「?」
「(帝都まで戻るための)魔石が足りないなら、街で買えばいいんじゃにゃいか?」
メイヴィス「いやぁ、チャージ用魔石は非常に希少で高価なものじゃ。帝国だから大量に備蓄できていたのじゃ。こんな辺境の街では手に入らんと思うぞ」
「聞いてみないと分からんにゃ」
だが、商業ギルドで訊いてみたところ、やはりすぐには用意できないと言われてしまった。時間を掛ければ少量なら手に入るだろうが、転移が可能なほどの質と量となると、事実上不可能だろうと。
それに、魔石の原石そのままではリチャージブル魔石にはならないそうで、精製・加工が必要なのだが、それができる技術者はこの街には居ないらしい。
さらに、転移の魔道具を作動させられるほどの大量・高品質な魔力を保持できる魔石となると国宝級モノで、そう簡単に手に入らないのだそうだ。
「じゃぁ、空になった魔石に魔力をチャージしたらどうにゃ? チャージして再利用できるんにゃろ? 俺は結構魔力が多いから、入れてやるにゃ」
だが、俺が魔力を押し込んだところ、魔石は簡単に壊れてしまった。どうやら短時間に大量に魔力を入れると壊れてしまうらしい。
(一瞬、高価なレアものを壊してしまったと焦ったが、それは別に気にしなくて良いという。帝都でも、チャージに失敗してダメにしてしまう事はたまにあるのだそうだ。)
魔石の魔力チャージは、少しずつゆっくりやる必要があるようだ。だが、ちょぼちょぼと少しずつチャージしていたのでは、時間が掛かりすぎる。
メイヴィス「帝都でも、長い時間掛かって備蓄してきたのじゃよ。なにせ転移が可能になるまで魔力をチャージするのに、一つにつき二百人の魔法使いが半年掛かりじゃからの」
実は転移の魔道具は皇帝が管理しており、滅多に使用許可が出ないものなのだそうだが、今回はメイヴィスがどうしても必要だと言うので特別に使用許可を出してもらったのだそうだ。
そうまでして俺を補まえたかったのか…。
「じゃぁ王都から魔石を取り寄せれば良いにゃ。届くまで、街でゆっくりしてればいいにゃ」
メイヴィス「……実はな、帝都にももう備蓄がないんじゃ。先日この国を占領する時の奇襲作戦で全部使い切ってしまったからの。儂が持ってきたのが、本当に最後の魔石じゃったんじゃ」
「それじゃぁ、帝都でチャージして持ってきてくれるまで気長に待てば…」
メイヴィス「儂もそうしたいところなんじゃがな。皇帝陛下がすぐに戻って欲しいと言うのでなぁ…」
実は、時間が掛かってよいのなら、メイヴィス達も馬車で帝都に向かえばいいのである。馬車なら足の悪いメイヴィスでも問題はない。なんなら乗り心地の良い王家の馬車で迎えに来てもらえばいいのだ。賢者に返ってきて欲しい皇帝なら、すぐに迎えを寄越すだろう。
メイヴィス「まぁ、確かに、王家の馬車なら乗り心地はそれほど悪くはないがの。それでも、長時間の移動は腰に来るので嫌なんじゃよ。それに馬車での往復の日数も、皇帝陛下は短縮してほしいはずじゃ」
「皇帝の都合とか俺には関係ないけどにゃ…」
まぁ、グダグダ言ってはみたものの、俺が連れて行くつもりなのだが。ここで放りだしたら報酬も貰えなくなるしな。(メイヴィスが再現に成功したという地球の飲食物は確かに魅力的だ。)
メイヴィスに略地図を書いてもらった俺は、空を飛んで帝都まで行き、都の中には入らずトンボ帰りでムサロに戻り、メイヴィス達を転移で運んでやったのであった。
帝都までも空を飛んでしまえば1~2時間の行程である。途中、空を飛ぶ魔物に襲われたりもしたが、軽く一蹴して亜空間に収納した。古龍と互角に戦える俺には
そして……
……今は、帝都の屋敷に着き、メイヴィスが紅茶を淹れてくれるのを待っている。
待つ間、考えていたのだが……
どうも、このメイヴィスという人物、百五十年も生きているだけあって老獪な印象がある。
もしかしたら、魔石を使い果たしたという話も、帝都にももう在庫がもうないという話も、全部嘘だった可能性もあるかも?
本当にないと言ったのも、泣き落としにかければ断れないだろうと読んでの嘘だった可能性も?
この世界に来てから俺は、駆け引きが必要な相手とはほとんど出会った事がない。多少知恵の回る魔物はブラフや駆け引きもする事があるが、それでも人間の狡賢さには及ばない。
街に行ってからも、特に頭を使った交渉や駆け引きをした事はなかったしな。
だが…。人間は嘘をつく生き物だ。
中には、人を騙すことにかけては天才的に頭が切れる者も居る。
人間と付き合う時は気をつけなければいけないなと言うことを改めて思い出した。
ま、俺には高度な駆け引きなど元からできないがな。
だとすると、大事なのは、右往左往せず、自分を貫く事か…
などと考えていたが、出てきた紅茶を飲んで思考が止まった。
美味い……。
というか懐かしい……
そうそう、地球の紅茶ってこんな感じだったよねぇ。
メイヴィス「どうじゃ、よく再現できてるじゃろ?」
「確かに…!」
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