第一章 帝都の賢者編

第67話 賢者からの手紙

◆併合


カイトはエイケ侯爵の街の外でレイゼル将軍とその部下の騎士・兵士達と戦い、これを殲滅した。


その後、エイケ侯爵をも殺し、さらに王都へと向かう。ワズロー達はエイケ侯爵の指示だったが、レイゼル将軍は王の命令で来たとエイケ侯爵が言っていたからだ。ならば、指示を出した上司=国王のところに責任を取らせに行こうと考えたのだ。


その途中でカイトを討伐にやってきたコレトラ王と遭遇、戦闘になるが、カイトはこれも容易に撃破。(※コレトラ王は闇属性の強大な魔力を持っていた。闇属性の魔法は強力無比であったが、カイトは闇属性と対抗できる唯一の属性である光属性の強力な魔法が使えるので特に苦戦する事もなかったのである。)


そして、王を斃しやる事がなくなったカイトは一旦森に帰った。このままどこに行ってもよかったのだが、森の中に屋敷を出しっぱなしにしていたのを思い出したからである。


そしてその後、マニブール王国がどうなったと言うと……


実は、コレトラ王が死んだ隙を突き、帝国の軍隊がマニブールに侵攻。マニブールは帝国に占領されてしまったのであった。


賢者メイヴィスと宰相ブライナスは王が戦死するそうなる事を見越して占領部隊を国境付近に待機させていたのだ。そして、転移魔法を使って王都を強襲、占領したのだ。この電撃作戦に、王を失ったマニブールに対応する力はなく、ほとんど抵抗する事もなく降伏を受け入れざるを得なかった。


他の街を治めていた貴族も、コレトラ王の治世の限界、マニブールの終焉を予期しており、帝国への吸収合併を受け入れた。マニブール国民は根絶やしに滅ぼすと言われれば戦うしかないが、帝国の提示した降伏条件はそれほど悪いものではなかったのである。帝国に忠誠を誓うならば貴族の地位は保証され、引き続き街を治める権限を持ったままで良いと言う。委細は今後打ち合わせという事だったので、無駄に争って疲弊するよりは、少しでも良い条件が得られるよう交渉に入った方が良いと判断したのだ。


こうして、マニブール王国があった場所は、マニブールという地名のガレリア帝国の一地方となったのである。


帝国の一部となったため、当然、帝国の法律が適用される。マニブールの法律は全て廃止され、獣人達を差別する法律はなくなったのであった。




  +  +  +  +




■カイト


中途半端に人間の街に関わってしまい、なんだかどっちつかずの状態になってしまった。


だから人間社会と関わりたくなかったのだ。


獣人のために貴族と戦ったつもりではなかったのだが、「やるなら被害が出ないようにちゃんとやれ」とか「見捨てた」とか「そんなんだったら最初から手を出すな」とか言われる。


これは獣人に限ったことでもないだろうが、善意の援助というのは、そのうちどうしても、それを当然としてさらに要求を重ねてくるような厚顔者が現れる。


そのうち、「力のある者は弱いものを助ける義務がある」「それは当然なのだから感謝する必要もない」とか言い出すのだろう。


俺が無条件に虐げられた人々を救うというような善人・英雄的な性格であれば、話は早かったかもしれない。それなら今後の行動も決めやすいが…


…俺はそんな性格じゃない。そんな事をする義理はない。


俺は獣人にシンパシーを感じていない。もちろん、人間にもだ。


してみると、自分はもう本当に、【人間】ではなくなったのかなと思う。まぁ人間というものに絶望して別の種族を選んだのだから、望み通りだが。


家族も仲間も居ないので、守るべきは自分だけだ。利己的だと言われるかも知れないが、すべての生物がそうだろう?


もう面倒なので。


すべて放りだしてどこか別の場所に移動しよう。その後、街や人々がどうなろうと知った事ではない。


全部なかった事にして忘れよう、うん。それがいい。それでいい。


というわけで、どこかへ移動しようと決意したところだったのだが、ちょうどその時、俺を尋ねてきた者が居た。


こんな森の中にある屋敷を訪ねて来る者など居ないはずだが……?


ああなるほど、この魔力の感じ。これは、先日屋敷に招待したグリスとか言う者達だな。確かあの時は転移で連れてきて転移で送り返したはずだが、この場所を探し当ててまたやってきたのか。


まぁ街の騎士達も屋敷まで辿り着いたから、森の中に住んでいるという情報と探索手段を持っていれば、それほど難しい事でもないか。


ただ、屋敷は高い塀で囲い、入口もつけていない。彼らはぐるぐると屋敷の周囲を回りながら困っているようだ。


様子を伺っていると、どこからから木を倒してきて塀に立てかけているようだ。梯子にして塀を乗り越えるつもりか。無作法だな。


俺はグリス達が通れるよう壁の一部に開口を作ってやった。


グリス「開けるなら、もっと早く開けてくれれば、登らなくて済んだのに…」


既に立てかけた木の上まで登っていたグリスは、降りてきて文句を言い出した。


「勝手な事をいうにゃ。塀を乗り越えて侵入とか、魔物かと思って殺してしまうところだったにゃ」


グリス「ひえ、それはご勘弁を…」


「だいたい、塀の上まで登って、その後どうやって降りる気だったにゃ???」


グリス「……飛び降りるとか?」


壁の高さは10mはあるのだが……そうだった、この世界の人間は頑丈なのだった。おそらくナチュラルに魔力で強化しているからなのだろう。


「しかし、ギリギリだったにゃ。もうここは引き払うところだったにゃ」


グリス「え、どこかに行かれるのですか?」


「他へ行くことにしたにゃ」


グリス「どこへ…?」


「決めてないにゃ。また森の中を…今度は反対側に向かって突っ切ってみるかにゃ」


グリス「それでしたら、ぜひ、帝国にいらっしゃいませんか?」


「帝国?」


グリス「はい、帝国の賢者、メイヴィス・アダラール様が、ぜひ、カイト様にお会いしたいと言っております」


「ん~帝国って人多そうだしにゃぁ、人間がたくさん居るところはあまり好かんにゃ」


グリス「まぁ、そう言わず。こちらに賢者様から手紙も預かってきています」


「手紙? この世界に来てから手紙なんて貰うのは初めてだにゃ」


グリス「…来てから?」


「ああ、なんでもないにゃ。ずっと森の奥に一人で居たからにゃ」


グリス「ああ、にゃるほど、いやなるほど」


受け取った手紙を爪で開封し、中の紙を取り出して開いてみて…俺は固まった。



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