第46話 街は…

ガスト「私は……今後一切その獣人とは敵対しないと約束したら見逃してもらえました。


幸い、その獣人は自分に対して攻撃してこないなら人間に興味はないと言っていましたので…


…つまりそもそも最初から彼を刺激しなければ、攻撃しなければ何も起きなかったのではないかと…」


侯爵「…とは言え、この国では、そうも行かんだろうしな。獣人差別はある意味王命だからな…いずれどこかでトラブルは起きたであろう」


ガスト「…はい、遅かれ早かれだったかも知れませんが。ただ…


…父は本気でその獣人を討伐しようとしたのでしょう、街の騎士全てを投入したのです。それが…全滅させられてしまったので…。現在、街には騎士が居ない状態となっておりまして……」


侯爵「それはまずいな」


ガスト「はい、その状況に気づいた街の獣人がクーデターを起こすという情報があり、獣人達の一団が屋敷に向かって来ているという情報があったので、屈辱ではありましたが、使用人達とともに脱出して参った次第です」


スウィフト「獣人相手に逃げ出すなど、俺なら絶対しないけどな!」


ガスト「…私も、一人でも獣人達を制圧する事はできたと思います! が、その後の統治をを考えると、一人ではやはり難しいかと思いました。それで、侯爵様になんとか、人材を貸して頂けないかと…」


侯爵「うむ。いくら力があろうとも、一人では統治はできんものだ。スウィフトはもう少し深慮すべきだろうな」


スウィフト「ぐむう…」


侯爵「しかし…まずいな。もしワッツローヴの街が獣人達に取り戻されたなどと知れ渡ったら、影響が大き過ぎる。ここ・・もかつて獣人の街だった、多くの獣人を抱えている。ワッツローヴの獣人が決起し成功したと聞けば、この街の獣人達も愚かな事を考え始めるやもしれん」


ガスト「獣人共の鎮圧は私一人でもなんとかしてみせますので、その後の街の統治の維持管理に人をお貸し願えませんか?!」


侯爵「だが、ビレリフを殺した獣人はどうする? 本当に何も口出ししてこないと思うか?」


ガスト「それは大丈夫だと思います。もともとその獣人は外から来た者のようで、今も街に住んでいるわけではないようですし。


騎士団と交戦したのも、攻撃されたから反撃しただけで、街の獣人の待遇改善を求めて戦ったつもりはないと言っておりました。獣人の境遇など、街の内政については関わる気はないとはっきり言っておりましたので。


奴を直接攻撃しない限りは、街の支配体制について何か言って来る事は無いと思います」


侯爵「…ビレリフは、余計な事をして身を滅ぼしたというわけか…」


ガスト「…そう思います」


侯爵「とは言え、獣人を野放しにしておくことは、陛下のご意向から外れる。この国の貴族として、ビレリフの行動は間違いとも言えん」


ガスト「父が言っていたように、その獣人は、獣人ではなく妖精族であると言う事にすれば、王命に反する事にもならないかと…」


侯爵「……」


ガスト「…?」


侯爵「…ダメだな」


ガスト「え?」


侯爵「その獣人は、見た目は獣人なのだろう? 仮に本当に獣人ではない別の種族であったとしても、騎士を相手に戦える力を持った者が、いかにも獣人の外見をして居るとなれば……獣人達にそれが知られれば、反乱に利用される可能性がある」


ガスト「では…どうすれば……」


侯爵「その獣人をなんとかして殺すか捕らえるかしろ」


ガスト「それは…」


侯爵「難しいか? 父親ビレリフでも勝てなかった相手だ、そりゃそうか。だが安心しろ、たとえ相手が魔法を使える者であっても倒せる十分な力のある人材を貸してやる。


まぁ、すぐにとは言わん。その獣人のことよりは、まずは街の治安を取り戻す事が先だからな。その獣人モドキが関わってくる前に体制を取り戻せ」


ガスト「…はい」


侯爵「安心しろ、第三騎士団と…そうだな、魔法師団も貸してやる。それなら安心だろう?」


ガスト「! はい! ありがとうございます!」


侯爵「ガスト、すぐに折り返し、反乱を起こした獣人達を粛清しろ」


ガスト「はい!」


侯爵「うむ。疲れているだろうが、ビレリフのあとを継いで伯爵となれる力があるか試されていると思え」


ガスト「必ずや期待に答えてみせます!」


ガストは侯爵に言われた通りすぐに街に戻ろうとしたのだが、結局、騎士団もいきなりすぐに出撃準備はできず。一晩侯爵邸で泊まり、出発は翌日となったのだが。




  +  +  +  +




そして侯爵家の第三騎士団を伴い街に戻ったガスト。


門番からの情報で、例の獣人は街を出て今は居ないという事が分かった。


まさに好機と、ガストは街を取り戻すべく屋敷に向かう。ガストは一人でも大丈夫だと言ったが、さすがに一人で行かせるわけにも行かず、騎士団長の判断で三人の護衛騎士を伴っての突入であった。


そしてガストは領主邸を占拠していた獣人達を宣言通り一人で殲滅してみせた。ガストも伯爵の血を受け継いで強力な魔法を使えるのだ。ガストの強力な攻撃魔法の前に、魔法が使えない獣人達は歯が立たず。簡単に鎮圧されてしまったのであった。


護衛に来てくれた騎士が時間を稼いでくれるので、ガストは落ち着いて強力な魔法の呪文詠唱に専念できた。これは正直助かったとガストも思った。一人で身体強化を使って戦いながら短縮詠唱で魔法を打つのでは苦戦する可能性があったのだ。


実はこの国の軍隊が獣人の国と戦争をして勝ったのは、前衛を騎士が担当し獣人を抑え込み、その間に後衛の魔法使いが攻撃魔法を打ち込んでいく戦法を徹底したからである。魔法職との連携をこの国の騎士達はよく理解し訓練されているのだ。


その後、騎士団の騎士達が街の要所を押さえ、獣人達の反乱はあっという間に鎮圧。獣人達はスラムへと押し込まれ、街は元通りの状態となったのであった。




  +  +  +  +




■カイト


行きつけの街の料理屋【青空亭】で飯が食いたくなったので街に来た。


四日ぶりである。


最初は、街に来るのは一月に一度だった。それが月に二度になり、四度になり。どんどん来る頻度が高まっている。その理由は【青空亭】である。


正直、街の料理はイマイチなものが多かった。自画自賛ではないが、自分で作った料理のほうが美味い事のほうが多い。だが、唯一の例外が【青空亭】である。自分ではできない発想と味付けの料理を出す店なのだ。街で唯一、行列のできる店でもある。


青空亭のメニューは、いまだ全ては制覇していない。全ての料理が美味いとは限らない。中には苦手な食材を使った料理だってあるだろう。だが…、あの親父さんの腕ならどんな料理も美味しく作り上げてくれそうな予感がある。


さらに最近は、調味料や料理のアイデアなども青空亭の親父さんに提供している。それを、どんな料理にしてくれるかも楽しみである。


さて、今日は何を食べようか…


いつもの定番メニューもいいが、やはり食べた事のないメニューに挑戦するか…


そんな事を考えながら街を歩いていたら、石が飛んできた。


誰だ、俺に石を投げつけてきたのは? 攻撃されたなら反撃する、それが俺のルールだ。


まぁ攻撃というほど大したものではなかったのだが…。


俺は石を投げた者を探して周囲を見回した。


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