第50話 獣人達は領主邸に乗り込む
「あ、そうそう、領主のワッツローブ伯爵はもう死んでるにゃ。俺が殺したにゃ」
獣人達「「「「「「ええええ?!」」」」」」
オリスン「口では冷たい事を言っていたが、あなたはやっぱり獣人達を救おうと……」
「知らんにゃ…。俺を殺そうとした奴は殺す、それだけにゃ」
「それに、領主が居なくなったわけじゃないにゃ。今は息子が後を継いだはずにゃ」
オリスン「そ、そうか。状況は変わっていないと言う事か」
オリスン「?」
ラスク「息子なら、父親よりは弱いだろう?」
オリスン「その可能性はあるが…分からない。父親より息子が強い
ラスク「……」
カミタ「…くそが! やってやるぜ! 領主の息子を殺して、街を取り戻すんだ!」
結局、クーデターは決行されるようだ。オリスンには再度協力を求められたがもちろん断った。オリスンも念のため訊いてみたという程度だろう、食い下がる事はなかった。
そして、オリスン達は、木の棒や鍬、折れた剣など、粗末な武器で武装し、領主邸に向かって行った。
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◆ガスト
暫定ではあるが領主を引き継いだガスト。
だが、状況が最悪な事はすぐに分かった。なにせ、領主の雇っている騎士がほとんど壊滅して居ない状態なのだ。
格上の相手に騎士団を損亡させた愚かな父親を呪う言葉が思わず出てくるが、愚痴ったところでどうしようもない。
とりあえず、領主を引き継ぐにしても、まずは体制を整えなければならない。その前に、情報収集と状況の把握だ。
ガストは残った僅かな部下と使用人を集め、現状で使える人材の確認をした。それから、その者達に街の状況についても情報を集めるよう指示を出した。
すると、獣人達がクーデターを起こすのではないかという噂が街に流れているという情報がすぐに入ってきた。
別に極秘情報を掴んだというわけではなく、ただの街の噂であったが、信憑性は高いとガストも思う。
なにせ、この国は長く獣人を虐げてきたのだ。獣人達の不満も限界に来ているのは街の人間なら誰しも知っている。チャンスがあれば爆発しかねないのは誰が見ても明らかだったのだ。
これまでは騎士団の圧倒的な力でねじ伏せてきた。だがその重しがなくなった今、それが現実になるのは時間の問題だろう。
そして、その時は思ったより早く訪れた。
領主邸に向かって武装した獣人の集団が歩いてくると報告があったのだ。
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武装した獣人の集団が街を行くのを見て、住民達は『ああついに…』と思う。
街の平民の人間達は獣人に同情的で、協力的ですらあった(中にはこっそり武器を渡してくれる住人も居た)ので、特にトラブルもなくあっさり領主邸に到達する。
だが、どうも様子がおかしい…
人の気配がない。
門は開いていたので中に踏み込んでみる。扉の鍵も開いていたので中に入ってみたが、特に罠という事もないようであった。
中には使用人の一人すらも居らず、屋敷はもぬけの殻であったのだ。
クーデターを察知したガストは残った使用人を連れ、一足速く街を脱出していたのである。
ガストも伯爵の血を受け継いでおり、かなりの魔力を持つ優秀な人材である。なんなら、魔法が使えない獣人の反乱軍など一人で撃退できるだけの力はあった。
だが、その後の事を考えれば、そう簡単な話ではない。仮に武装獣人のクーデターを退けたとしても、その後、街の獣人達を管理するのは一人では無理だ。
いっそ街の獣人をすべて皆殺しにしてしまえば憂いはなくなるが、それも一人でやるには現実的ではない。(できたとしても、街の住人の心証も最悪になるだろう。)
まずは体制を立て直す必要がある。そこで、ガストは隣町のエイケ侯爵を頼る事にした。侯爵に騎士を貸してもらい、街の維持管理を行うのだ。
元々ワッツローヴ伯爵はエイケ侯爵の派閥に属している寄子である。寄親であるエイケ侯爵はワッツローヴ伯爵家を助ける義務があるだろう。
幸い、ガストはエイケ侯爵とは知らぬ仲でもなかった。エイケ侯爵にはガストと同い年の息子がおり、伯爵に連れられてガストは幼い頃からよくエイケ侯爵家に出入りしていたのだ。
無事、エイケの街に着いたガストはまっすぐ侯爵の屋敷へと駆け込んだ。
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◆エイケ侯爵邸
エイケ侯爵「なんと、ビレリフ(ワッツローヴ伯爵)が死んだだと? それも獣人一匹に殺された…? ちょっと信じられん話だが」
ガスト「本当です、私はその場に居て一部始終を見ておりましたので…
私は王都の学校に居たので詳しい事情は分からないのですが、父はどうやらその獣人を討伐するために軍を差し向けたようです。しかし、返り討ちにあい、騎士団は壊滅。その事で獣人の恨みを買い、逆襲される事になったようです」
侯爵「…しかし、本当に? 騎士団を壊滅させ、あのビレリフを斃した? ただの一匹の獣人がか? 信じられんが……どんな奴だ?」
ガスト「はい、外見は完全に猫のようでした。二足歩行する大きな猫」
侯爵「先祖返りか。外見が動物に近い分、身体能力が普通の獣人よりさらに高くなると言うが…」
ガスト「身体能力は分かりません、剣を交えたりはしなかったので。その獣人は、非常に高い魔力を持っており、強力な魔法を使っていたのです」
侯爵「獣人が魔法だと?! …なるほど、特殊な変異体が生まれたか」
ガスト「父は、獣人ではなく妖精族だと言っておりました。部下が獣人と妖精族を見誤ったと謝罪して、なんとか許してもらおうとしたようですが」
侯爵「妖精族など、実在しないお伽噺の存在だ。おそらくビレリフは勝てないと悟った時点で言い逃れようとしたのだろう。だがつまり、ビレリフほどの力を持ってしても勝てないほど強い相手であったという事になるか…」
ガスト「はい…色々好条件を提示して獣人を懐柔しようとしたのですが、相手は応じる様子はなく。父は交渉の隙を突いて攻撃を仕掛けたのですが、なんとその獣人は父の
侯爵「ちょと何を言ってるか分からんが」
ガスト「私もどうなっているのか訳が分からないのですが、とにかく力の差は歴然で…」
侯爵「それほどか……。
しかし……眼の前で父を殺されて、仇も討たず獣人を逃したのか? まぁ、未だ学生の身ではどうしようもないか……
いや…わざとか? 父親が居なくなれば自分が伯爵になれるからな?」
ガスト「そ、そのような事は……」
ガスト(ちょっと考えましたけどね…)
侯爵「まぁよい。貴族の世界、親子の間で下剋上もよくある話だ。なぁ、
スウィフト「いえ! 私は父上を尊敬しておりますので。いつまでも末永く父上に当主で居て頂きたいと思っております」
侯爵「……やれやれ。儂としては少しは野心も持ってほしいのだがな…」
スウィフト「私には父上のような器はありませんので」
侯爵「それはそれで困るのだが……それはともかく」
侯爵「それにしても、聞けばその獣人は交渉にも応じないタイプであったようだが? よく
ガスト「…その獣人は、敵対しないならいいと言って、見逃してくれたのです。
攻撃されたから反撃しただけ、攻撃されないなら、人間の世界の権力争い等には関わりたくないと…。
私が領主になって、元通り街を治めるとしても、『好きにすればいいにゃ』と言ってました…」
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