第43話 全滅…だと? 信じられん
俺は思わず眉を顰めてしまった。突然押し入ってきた獣人に『お前が領主か?』と誰何されたからだ。
獣人ごときにそんな生意気な言葉を吐かれたのは、かの戦争の時以来の事だ。
ガスト「おい! 汚らわしい獣人め! ノックもできんのか? ケダモノだから仕方がないのか?」
猫人「殴り込みの時にいちいちノックする奴などいないにゃろ」
猫人「てかお前は誰にゃ?」
ガスト「ワッツローブ伯爵家が嫡男、ガスト・ワッツローブだ」
猫人「で、こっちは……見るからに執事って格好してるにゃ」
執事「……」
ガスト「殴り込み…だと?」
「門番はどうした? 門番は残していたと言っていたよな?」
執事「はい、一人だけ、騎士が残されていたはずです」
猫人「門番なら少し睨んだら腰を抜かしたのでそのまま通ってきたにゃ」
ガスト「ホラ吹きめ、門番だって白鷲騎士団の騎士だ、お前のような猫人相手に怯むわけがなかろうが」
猫人「現に俺はここに居るにゃ?」
「下賤な獣人が……ズケズケ図々しく貴族の屋敷に上がり込んで、ただで済むと思っているのか?」
「…などと言っても仕方がないか。虫や獣に礼儀や道理を説いても無駄というものだな。(屋敷に)入り込んだのを見つけたら使用人に駆除させるだけの事だ」
俺が命じるまでもなく、執事は即座に動いていた。
執事は、引退したが以前は騎士団長まで務めた猛者だ。老いたとは言え猫一匹排除する実力はある。
執事は獣人に素早く接近し懐剣を抜いて斬りつけた。
だが…
次の瞬間、執事は吹き飛ばされ、宙を飛び壁に激突。そのまま壁を破壊して崩れた瓦礫とともに隣の部屋へと倒れ込んだ。
「?!」
猫人「ちょっと威力がありすぎたにゃ」
ガスト「なっ…?!」
「…何をした?」
見たところ猫人が動いた気配はなかった。
猫人「高圧縮した空気の球をぶつけてやっただけにゃ。火属性なら火球、水属性なら水球、風属性なら……空球? 気球? 風球? 気球でいいか」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
※もちろん、普通に気球を作ったところで大した威力はないが、大量の空気を詰め込み圧縮すれば別である。超高圧縮された空気を一気に開放すれば爆弾の爆風と同じ、かなりの破壊力となる。しかも、開放される面を限定して指向性を持たせる事も可能である。(今回は執事のいる方向に開放された。)
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「貴様、風属性の魔法が使えるのか…?」
だが猫人は俺の質問には答えず、質問を返してきた。
猫人「お前が領主で間違いにゃいか?」
「…如何にも。私が現在この街を収めているワッツローヴ伯爵であるぞ。猫人ごときが本来直接話しを出来る立場ではないのだが、執事を倒した腕に免じて話を聞いてやろう」
猫人「大勢の騎士や兵士に襲われたにゃ。そいつらは領主の伯爵の軍隊で、伯爵の命令で俺を討伐に来たと言ってたにゃ。お前が命じた事で間違いにゃいか?」
「…知らんよ」
猫人「……にゃんと、嘘ではないようだにゃ」
「?」
猫人「俺は【嘘判定】が使えるにゃ。この部屋に入った時から魔法は発動してるにゃ。だが、お前の返答には嘘判定が付かなかったにゃ。嘘じゃないが……グレー判定だにゃ。うまくとぼけたにゃ?」
「惚ける気などないさ。確かに、街の治安を守れとは命じている。獣人が暴れているという報告も受けたので、そんな獣人はさっさと処理しろとも命じた。だが、その対象がお前かどうか私は知らん、という事だ。お前がその獣人なのか?」
「報告によると、その獣人は貴族や騎士を殺したそうな。身に覚えはあるか?」
猫人「……あるにゃ。でもそれは正当防衛にゃ。襲われたから反撃しただけにゃ」
「正当防衛か……そんなもの、獣人には認められんのだよ、この国ではな」
猫人「獣人は、理不尽に貴族に殺されても、抵抗するにゃと? 黙って殺されろというのか?」
「ああそのとおりだ。貴族が獣人を殺したいと思えば殺して良いのだよ、この国の法律ではそうなっているんだ」
猫人「…判定は白にゃ。コイツも同じ事言ってが、どうやら本当の事らしいにゃ」
そう言うと、何もない空間から猫人が何かを取り出した。
「…!!」
見ればそれは、我が街の魔法師団長モイラーの生首ではないか!
「…お前、
おそらく誰かがモイラーを殺し、その首を眼前にいる猫人が拾ったか盗んだかしたのだろうと思った。小柄な猫人ごときに自称とは言え賢者を名乗るモイラーが倒されるとは思わなかったからだ。
だが、猫人が言った。
猫人「俺が殺したにゃ」
「一緒に居た騎士達は? 兵士達はどうしたのだ?」
猫人「死んだにゃ。少し脅したら平民の衛兵達は逃げ出したが、残った連中は攻撃してきたから反撃したにゃ」
「全滅…だと? 信じられんが……」
「…先日、我が領の精鋭騎士数人が森に入り行方不明になったが、それも……?」
猫人「…俺の屋敷にやってきた白い騎士と黒い騎士なら攻撃してきたから殺したにゃ」
「なんだと……?!」
「……ふっ、どうにも信じられんな。キムリはともかくシックスは我が国でも一、二を争う実力の騎士だったのだぞ? お前のような小さな獣人が勝てるわけがなかろう」
猫人「見た目が強そうならいいにゃ?」
「…!」
そう言うと猫人は見る見る巨大化していき、天井に届きそうな巨大猫になった。そして恐ろしい目つきでキバを剥き、シャーと威嚇してきた。
眼の前の巨大な化け猫から発せられた威嚇は一瞬だけであったが、その迫力に不覚にも腰が抜けそうになってしまった。
だが俺も上位貴族としてのプライドがある、腹に魔力を込めてなんとか持ちこたえた。
「……な、る…ほど……。その見た目は…相手の目を、欺くため、というわけか…」
努めて平静を装いながら言ったが、少し声が震えていたがバレていないだろうか?
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